第4話 規格外でした

 いつからだろう。目に映す光景から色が消えたのは。


 いつからだろうか、目に映す光景に色がついたのは。

 この俺、近衛快兎が目に映す光景は常に変わってきた。


 いつからだろうか、『出会い』という現象が新鮮でなくなったのは。

 いつからだろうか、『出会い』が悲しくなったのは。


 俺の目に映る景色は日に日に姿を変える。

 時にやさしければ、時に異常なまでの迫害を受ける。

 そう、元々お前の居場所なんか無いと否定されているかのように。


 俺は、偽りの上に生きている。

 いつからか素顔を隠し、その上に何の特徴も無い仮面を貼り付け、日々をやり過ごしてきた。

 そして行き場をなくした素顔は、いつの間にか消えていた。


 まるで何もない平凡な人間がお前だと嘲笑うかのように、消えた。

 自分の素顔を忘れ、特段楽しくないことで適当に笑い、日々をやり過ごす。


 いつからだろう、自分の有様が歪んでいると気がついたのは。

 いや、元から俺は歪んでいたのだ。


 だから自分が歪んでいることに気がつくのに時間がかかった。


 俺には、元々何も無かった。

 何かがあったと錯覚していただけですぐに忘れ去り、消える。

 だから俺には何も無い。


 いつからだろう、いや、元からだろう。この心にでかでかと空いていた。

 しかしその大穴、虚無とでも言うのであろうか、特段忌むべき物ではないと俺は知っている。というか理解している。

 何故ならそれは、その虚無という有り様は他でもない――




――俺自身なのだから...


『重要コード【世界】のダウンロードに成功...』

『同期開始.........成功』

『固有ジョブの適正を確認...固有ジョブ【虚無魔道士】を獲得』

『...緊急事態発生...システムのダウンロードの停止を開始...』

『...失敗...システムの複製を開始...成功』


 虚無という性質は何かを引き込んでは無くす。そういうものだ。


 どこからか、声が聞こえてきた。この声も、いずれ無くしてしまうのだろうか。



――――――――――


 『...を......す』 


 ...いつの間にか背を木に預け眠ってしまっていたようだ。

 そういえば森の中だったなと自覚して注意が足りなかったと反省する。


 しかしどんな夢を見たっけな。

 誰かが喋っていたことしか覚えてないな...


 異常なまでに無機質で、何事にも関心が無いような、そう、電子音声みたいな声を聞いた気がする。


 まぁ、忘れたことを悩んでいても仕方が無いだろう。

 ここは危険なんだ。


 ...まて、何で俺はここの森が危険だと知っている?

 まるで知識だけ埋め込まれたかのように...


 まぁいい、一先ず進もう。



 どれくらい移動したかはわからない。だが、目の前に立ちはだかるものがあった。


 「狼...?」


 そう、あの群れることで有名な厄介な狼である。

 俺は戦闘経験など無いのでとりあえず、スキルを使うことにした。


 「『異界防衛術召喚』!」


 イメージするのはあの信頼性が高いことで有名なデザートイーグル。

 すると、手の中にデザートイーグルが、元からそこにあったかのように出現する。

 幸い、目の前の狼はこちらを見て唸っている、と言うか警戒している。


 俺はゆっくりと狼の眉間に照準を合わせ、トリガーを引いた。


 バゴォ!


 手が痺れるくらいの衝撃と共に発射された弾丸は、狼の眉間に命中。

 しかし、それで狼の頭が砕けることは無かった。


「おいおい!対車両拳銃じゃなかったか!?」


 撃たれた当の狼は頭を強打されたときのようにふらふらして...あ、倒れた。

 倒れた狼に警戒しつつ近づく。

 

 どうやら気絶しているだけのようだ


 この森では銃は通用しないのか?

 だが、銃は保険又は牽制と考えるのが妥当だろう。


 だとするなら、攻撃の手段が生身以外存在しないことになる...

 なら生身で?いや、確か支援魔法にステータス上昇する奴があったはずだ。

 確か名前は...


「『ブースト』」


 とりあえず最大出力での殴りを敢行する。


 と、その瞬間...



 隕石が降り注いだような音と共に飛ばされそうなくらいの衝撃が発生した。


「何が...!?」


 慌てて周りを確認すると、どうやら俺を中心にクレーターが出来上がっているようだ。


『エンドフォレストウルフを討伐しました。

経験値を683獲得しました。』

『エンドフォレストウルフを討伐しました。

一撃ボーナスと潜伏ボーナスにより経験値を1358獲得しました。』

『エンドフォレストウルフを討伐しました。

一撃ボーナスと潜伏ボーナスにより経験値を1294獲得しました。』

『エンドフォレストウルフを討伐しました。

一撃ボーナスと潜伏ボーナスにより経験値を1340獲得しました。』

『エンドフォレストウルフを討伐しました。

一撃ボーナスと潜伏ボーナスにより経験値を1316獲得しました。』

『エンドフォレストウルフを討伐しました。

一撃ボーナスと潜伏ボーナスにより経験値を1354獲得しました。』

『エンドフォレストウルフを討伐しました。

一撃ボーナスと潜伏ボーナスにより経験値を1368獲得しました。』

『エンドフォレストウルフを討伐しました。

一撃ボーナスと潜伏ボーナスにより経験値を1386獲得しました。』


『デフォルトレベルが上がりました。

デフォルトLv.1→12

NextEXP:7557

MaxEXP:7575

TotalExp:10099』


「うおっ」


 突然現れたメッセージウィンドウにも驚いた。


 ちょっと待て、俺は確かに自分にブーストを掛けた。

 そして銃弾が貫通しないくらい狼が強いと思っていたから最大まで、10万倍になるようにブーストを掛けた。

 そして拳を全力で狼めがけて振り下ろした。それだけだよ?


 


 ...結構広くて深いクレーターができました。

 具体的に言うと半径80m程度のまん丸な半球の形のクレーターが...


 もしかしてさ、俺って規格外なの?

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