ボタニカルトーク
めぞうなぎ
ボタニカルトーク
ギィ、バタン。
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「あぁ~、疲れたぁ~。喰らえ、弱音のシャワー。ちょろちょろちょろ」
「水流ショボいな」
「愚痴とは排泄なり、すなわちこの擬音は音姫なり」
「尾籠な話をしてんじゃねぇぞ」
「喉乾いたな~。水いる?」
「二日酔いだからありがてぇわ」
「あんまり飲み過ぎたら体に毒だよ――乾杯」
「おう」
「ごくっごくっ――。んっはぁ、とりあえずただいま、茂美」
「いつも言ってることだがな、本名で呼ぶな。俺の植物界隈でのアダ名、教えてやろうか」
「拝聴するよ」
「グレートバリアリーフだ」
「本当に?」
「かの海ほど俺の心が澄み切ってるってこった」
「リーフで駄洒落にしたかっただけでしょ――長いから略称にしていい?」
「イカしたやつを頼むぜ」
「元がイカレてるからな――グリーフとかどう?」
「別に悲しくも何ともねえよ」
「レリーフ?」
「建築物らしさなんぞ鉢くらいにしかないだろうが」
「リリーフ?」
「何の抑え投手だよ。CO2か」
「意味だけで言えばベイリーフでしょ?」
「ポケモン図鑑には載ってねえよ」
「トーフとかどう?」
「ここは畑じゃねえし、俺は多肉植物でもねえ」
「どれもしっくりこないからブリーフでいい?」
「殴るぞ」
「ふっ、根も足も出ないくせに」
「根と足はほぼ同義だろうが――お見舞いするぜ、マイナスイオン」
「あっ、癒される癒される。イオイオ。すごいイオナズンしてる」
「色々変わってんぞ」
「これが効くんだよねー。ほら、僕ってイオニストだから」
「それもまた意味が違うな」
「心が洗われるようだよ――バラ風呂みたいな半身浴みたいな、森林浴風呂」
「何入ってんだ」
「樹木と……土?」
「木の気持ちになってどうするよ」
「確かにこれだと
「訳が分からんぞ」
「木を隠すなら森の中だよ」
「土中じゃんかよ」
「土中見舞い待ってるよ」
「水だろ?」
「涼もとれるし、意外と意味はズレてないんじゃない?」
「根本はな」
「辿ったルートは間違っていなかった……!」
「いつもいつも唐突に駄洒落を挟むな。根回しが済んでからにしろ」
「そんなに根に持たなくても」
「読んでる方の根気にあんまり期待するなよ」
「植物だけに根張り強くあってほしいものだね」
「これはループルートなのか?」
「そんなに嫌なら終わルート」
「つまんねぇ」
「すまんねぇ」
「構わねぇ」
「優しいねぇ――ところでさ、君は観葉植物なわけだけど」
「そうだな」
「すると、葉っぱ以外枝葉末節じゃないの? 実質、葉っぱ以外飾りでしょ?」
「偉い人には分からんよ、俺の美しさが」
「偉い人でも分からないよ、君の図々しさは」
「ふっ、まだまだお前も初々しいな」
「茂美も相変わらず青々しいよ」
「――急に褒めるなよ。反応に困るだろ」
「光合成はしてもらわないと困るな」
「化学反応じゃねえよ」
「でも、葉っぱ必見って字面がダサいよね……。葉っぱガン見って言うと、変身が上手く出来なくて血眼になってるタヌキみたいだ」
「その被害妄想じみた比喩は置いといて――そう言われると、確かに葉っぱ以外は装飾物と言えなくもないがな」
「どうして葉っぱは観るのに茎や根っこは観ないんだろうね。損してるよね。オムライスに刺さってる旗を見て満足しているようなものだよ。それを支えているものにも目を遣らなくちゃ報われないじゃないか。人が葉っぱを観る時、葉っぱもまた人を観ているのだ――気孔って目っぽいし」
「さてはお前、またフラれたな?」
「そうなんだよー、まだ2週間くらいしか経ってないのにさー。葉っぱさえ見られてなかったかもしれないよねー」
「ご愁傷様だな」
「もうライフゼロ、全滅だよー。ほら、せかいじゅの葉出して出して」
「俺はせかいじゅじゃねえ、観葉植物だ。目の保養しかしてやれねえよ」
「よっ、目薬」
「バカにしてんのか?」
「いやいや、頼りにしてるよ。茂美と話したらちょっと元気出たもん」
「だから本名で呼ぶなってのに」
「さっ、憂さ晴らしの晩御飯でも作るとしますかねー。ぅんーっ」
「火傷には気を付けろよ」
「俺に触ると火傷するぜ、とかハードボイルドな台詞を吐くのかと思ったよ」
「んなこと言わずに呑み込め」
「へいへい、っと。おやすみ、茂美」
「グッドナイト」
「乾いてないねー、ウェットだねー」
「ウィットだよ――おやすみ」
「おやすぴー」
ボタニカルトーク めぞうなぎ @mezounagi
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