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事件の解決は私が思っていたよりもあっさりとしたものだった。
犯人はヒースロー空港に到着するのと同時に少年と畠山警部が逮捕し、現地の警察に受け渡されることになった。
少年が披露した推理を報告する前に、フジミさん(と同じ顔をした人間も含めて)が何度トイレに入ったのか、冷静にCAさんたちに話を聞いてみると、確かに三回だったということを述べておこう。
で、その回数の件も含めて、事の次第を推理した少年の言葉をまとめると、以下のようになる。
まず初めに結論を述べると、殺害されていたのは私の知る“アレックス・フジミ”という人物などではなく、全く同じ顔をした別の人物だったのだ。
私の隣の席にいたフジミさんは、二回目のトイレに立った時に自分と同じ顔をした被害者をトイレで殺害。そして私が席を離れるのを見計らって、私の鞄に銃を隠した後、殺害した男性の席に、彼になりすまして何食わぬ顔で座っていた。
時系列で言うならば、
午前十時頃、アレックス・フジミが一度目のトイレに立つ(この時点で被害者と何らかのやり取りがあったと思われる)。
午前十時三十分頃、中年女性がトイレを利用する。
午前十一時頃、被害者がトイレに。
同刻、犯人であるところのアレックス・フジミが再びトイレへ。犯行に及ぶ。
午前十一時三十分、私が射殺された被害者の遺体を発見する。
同刻、アレックス・フジミが凶器の銃を私の鞄の中に。
そして冒頭での畠山警部とのやり取りに入るわけだ。
被害者ではなく真犯人――アレックス・フジミの所在が分かったのは簡単なことで、何人かのCAさんに香水のキツイ乗客はいないかと聞いたところ浮上したのだった。見れば見るほど被害者と顔が似ていて驚いた。
で、殺害されたフジミさんと同じ顔を持つ男は一体何者だったのかと言うと、名前をベン・カンザキといい、フジミさんとは双子でも何でもなかった。しかし職業や経歴はフジミさんとほぼ似たようなもので、貿易関係の仕事をしていたということが彼の残された持ち物から分かったらしい。
「それにしても、他人の空似にしては、妙にできすぎてるわよね……」
「ああ、それなんですが」
少年が畠山警部に視線を向ける。
「おそらく二人は何かヤバイ仕事をしていたんじゃないでしょうか。ねえ、畠山さん」
「……」
ん? どうして警部に聞くんだろう。
しかし警部は数秒考えた後、深く溜め息を吐いて、
「一体、いつから気付いていた」
と、聞き返した。
「初めから薄々とは。実は貴方が波戸さんに事情聴取をしているのを部屋の外で聞いていたんですけどね、貴方は所属している警察署や部署を言わなかった。チラッと警察手帳を見せただけ。それでおかしいなって思ったんです」
「そんなところから、俺を疑っていたのか」
「確信を持ったのはその後、警視総監に連絡した時です。気になったのでついでに貴方のことを調べてもらったんです。そうしたらあっさりと正体が分かりましたよ」
「ふん……全く、喰えん奴だな、お前は。分かった上で黙っていたとは」
え、なになに? 私だけ? この状況についていけていないのって私だけ?
「つまりですね、波戸さん。結論を述べますと、彼は
「は?」
少年の言葉に、畠山警部はまるで観念したかのように肩を竦ませてみせた。
え、どういうこと? 公安って、あの公安? あの刑事ドラマなんかによく登場する、アレ?
「ドラマのイメージはほとんどでっち上げだがな。俺が公安の人間だっていうのは事実だ」
「おそらくですが、亡くなったカンザキ氏と犯人のフジミ氏は麻薬や銃の運び人だったんじゃないでしょうか。あるいは何らかの工作員。顔を同じにしたのは仕事のためか、単に同じモデルを選んだのかは分かりませんけどね。ですが互いに整形で顔を同じにし、パスポートまで偽造するほどですから、かなり大規模な組織の人間でしょう。で、取り分か何かで揉めた結果、フジミ氏がカンザキ氏を殺害してしまった。今回の事件は、その程度のものだったんです、本来は」
「ああ。そこの女が絡んだせいで、余計に訳が分からなくなっちまった。万が一にも他の人間の――つまり波戸の犯行である可能性も残っていた。だから俺は身分を隠していた。そして小僧はその芝居に合わせてくれていたってわけだ」
「最初からあの二人をマークしていたんですね?」
「まあな、今日、何らかの動きがあるのは掴んでいたからな」
何か……ポンポンと話が進んでいくんだけど、私は全くついていけていない……。
「や、あの……正直飲み込めてはいないんですけど、それで、公安がどうとかはさておいて、私が巻き込まれたのって……」
「おそらくフジミの方は初めからカンザキを殺害するつもりだったのだろう。お前は奴のアリバイ工作に利用されたんだ。あわよくば犯人の汚名を被ってくれることも期待してな」
「えっと……つまり、私はあのイケメンに騙されたってこと?」
「そうなるな」
「……」
……。
「ふっざけんなあああ!」
混雑するヒースロー空港に、アラサー独身女の悲惨な叫びが響き渡ったのだった。
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