VRゲームのデバッグアルバイト募集中!!

ちびまるフォイ

バグはいつも人の手で生まれていく

「えっと、君が今回のデスゲームのデバッグアルバイト?」


「はい。よろしくお願いします」


「明日、VRゲームのβテストという名目で参加者をつのって

 その実、参加者をデスゲームに陥れるわけなんだけど」


「なるほど」


「君には、ゲームが正常に動作するのかデバッグを頼むよ。

 ゲームマスターである私でも予期せぬバグで

 本来のクリアとは別の方法でゲームから離脱されるのは

 ……なんというか、かっこ悪いじゃないか」


「わかりました。しっかり見つけてきます」


「よろしく頼むよ。ゲーム開始時には私の

 超クールな演説も控えているからね」


デバッグ君は頭に専用のゲーム機をセットして、

VRゲームの世界へとログインを果たした。


明日に控えるデスゲームと同じ状況にするために、

できるだけ環境は本番に近しいものになっている。


「あの、ゲームマスター」


「なにかな? ゲームの説明かい?」


「いえ、この壁の境目なんですが、こう、体をよじると……」


デバッグ君は壁の隅に向かって体をめり込ませ始めた。

みるみる体は壁の向こう側、裏世界へとフルダイブする。


「壁をすり抜けて、どこまでも落ちていきますよ」


「おお、さすがデバッグ君!

 壁の当たり判定の抜け穴を見つけるなんてさすがだね!

 すぐに直しておくよ!!」


ゲームマスターは喜々としてバグを修正しパッチを配布。

VRデスゲームがアップデートされると、壁の当たり判定が大きくなり、

もう壁に体をめり込ませることができないように改良されていた。


「うん、大丈夫ですね。もうすり抜けできません」


「はっはっは。これでもゲームではちょっと名の知れた男だからね」


「それより、次のバグなんですが」


「おっ、また見つけてくれたのかい? なにかな?」


「武器を装備すると同時に、道具のソートをかけると

 バグって装備じゃないものを装備できますよ」


「……それって何が問題なの?」


「薬草でぶん殴りますよ」


「直す! すぐ直すよ!!」


ゲームマスターは慌てて道具袋の挙動を修正した。


デバッグを依頼しているとはいえ、

事前にゲームマスター側でもチェックし

最終チェックもかねてのデバッグだったのにここまで見つかるとは。


「よし、修正したよ。これでもう大丈夫。さすがにもうバグは……」


「ゲームマスター。敵を倒した直後に自殺すると、

 クリアと死亡が同時に発生して、ログアウトしますね」


「なんでそんなことするの!?」


「これもデバッグですから」


「いやいやいや……自分から死ぬ人いないでしょ。

 これくらいは仕様だよ、仕様」


「ふぅん」


デバッグ君の反応にゲームマスターはつっかかった。


「なに? なにか言いたいことあるの?」


「いいえ、ただ……」


「ただ?」


「今、表面化しているのは、こんなバグかもしれません。

 でも同じようなプログラムをしている箇所でも同様のバグがあるかも」


「そ、そんな馬鹿な……」


「そんなはずないですよね。もちろんわかっています。

 万が一、この見落としでゲームが台無しになっても

 まぁ仕様だから大丈夫ですよね。

 デスゲーム仕掛けておいてバグだらけだった、なんてのも――」


「わかったよ!! 修正するから!! もうやめてぇぇ!!」


ゲームマスターは泣きながら修正作業を行った。

今夜は完全に徹夜コースが決まった。


フルマラソン完走したてのランナー以上に

ボロボロのゲームマスターだったが、デバッグの手は止まない。


「ゲームマスター、ここのテキスト誤字あります」

「1文字だよ!?」


「ゲームマスター、イベント判定範囲が狭すぎて、無視できます」

「それただの会話イベントなのに!」


「ゲームマスター、先にこの町に行くと、フラグがおかしくなります」

「もう! 変な道順で進まないでーー!!」


 ・

 ・

 ・


デバッグ君の指摘に文句を言いながらも対応していき、

サーバーの負荷テストが終わった。


「ゲームマスター」


「ひぃぃ! 負荷テストだめだった!?

 もっと値段の高いサーバーにした方がいいい!?

 それとも違うバグ!?」


「なんでそんなにおびえてるんですか。

 ちがいますよ。もう大丈夫ってことです」


「ほ、本当!?」


「ええ、安心してください。

 もう僕の力ではバグを見つけられません。

 デスゲーム開始して大恥かくことはないですよ」


「やったーー!! 最後まで頑張ってよかったーー!!」


翌日のデスゲーム開始ぎりぎりになってデバッグ完了。


正直、対応しなくてもいいようなバグもあったが

最後まで根気強く頑張った末の達成感と解放感が押し寄せる。


「デバッグ君、本当にありがとう。

 これで心置きなくデスゲームを開催できるよ」


「頑張ってくださいね。僕はモニターで見てますから」


「ああ、任せておいてくれ。

 悪人だけど完璧なゲームを作った人間として

 お茶の間を騒がせてやるさ!!」


ゲームマスターは、この人ために用意したカッコイイマントを羽織り

威厳が出そうなマスクを顔につける。


ユーザーが逃げないようにログアウトロックをかけたのを確認し、

βテスト開始と同時にはしゃぐユーザーの前に登場した。


ゲームマスターは息を吸うと、ユーザーに恐怖のゲーム開始を宣告する!




「み、みみみみ、みなさん、よ、よよようこそ。

 こっ、こりぇから、みなさんにはははは、

 デスゲームっ……デスゲームをしてもらいましゅっ」




緊張で噛みまくる姿をモニター越しに見たデバッグ君は頭を抱えた。


「いけねぇ……ゲームマスターのリハーサルのデバッグ忘れてた……」

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