エンドローリング
さかなへんにかみ
第1話
必要以上の音量と反響で、どこか既視感のある女優の嬌声が響く。うちの映画館は今日も今日とて、不倫妻云々というポルノをひねもす上映している。この2ヶ月間の間ずっとこれだ。閉館寸前の経営状態であっても親から継いだ映画館。もっとマシな場所にしたいと、以前は思っていた。だが気づくとここは宙ぶらりんの欲望の掃き溜めになってしまった。この手の映画はコンスタントに客が入る。何軒かの武家屋敷を観光名所にして形成されたこの町で、人の集まる場所といえば病院か農協だ。売れ筋のフィルムを入れたところで客足はたかが知れている。
「また来てくださいね」
女優がそう告げた。この映画で一番好きなシーンだ。どこかとぼけた服を着た男たち、あるいは形容しがたい色味の女。彼らは惚けているようで、どこか不満げに画面を睨んだ。その顔にアブラムシに似た満足感を得て、試写室を出る。扉を開けるとぞろぞろ客が出てくる。それに伴って、建物自体なのか、シートからなのかは分からないが赤いむっとした臭いが溢れてくる。若く、緻密な臭い。
「ありがとうございましたー」
振り返る眼差しはない。皆足早に去って行く。トイレに急ぐ者、乗り付けた軽トラに乗り込む者。ただその足取りは来た時より壮健そうに見える。
「地方貢献してんなーうち」
=============完===============
エンドローリング さかなへんにかみ @sakanahen
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