Golden EXxxhaust!! 外伝 - さむらい☆らびっと

山田 有

⚙0 / Mr. Surfacer.

#1

新大陸アメリカ、英国領ニューイングランド。ウエストレッドの荒野を、一台の蒸気自動車ガァニィが白煙たなびかせ疾走する。蹴散らす砂埃の切れ間からのぞく後ろ姿は角張った荷室を乗せた狩猟者用汽動四輪車コウチ・シュウティング・ブレイクだが、ところどころウエストレッドの赤土で汚れつつも柔らかく輝く象牙色アイヴォリィの車体は、車体前面フロントの丸みを帯びた意匠とあいまった軽妙な佇まいである。

 荒れた地面を踏んで小さく跳ねた“ブラッシュウッド号”の助手席で、トゥート・ユアサは大きな欠伸をし、日よけにしていた円筒帽トップハットを被り直した。円筒帽のクラウンにに乗せられた保護眼鏡ゴオグルの真鍮部品が、ウエストレッドの強い日差しを照り返している。

「まっまく揺れすぎだ。ちっとも眠れやしねえ…なンとかならねえのかよ、RF」

 ユアサは低いがよく通る声で、しかし気怠げな声色でそう言って、運転席に首を半分だけ向けた。黄土色サンドベェジュの三つ揃いに皺が寄って控えめな艶を放ち、上衣ヂャケットの胸衣嚢ポケットに挿した焦茶色のの革手袋が揺れる。

「それはまったく完全に無理だよユアサ。ここは新大陸アメリカのウエストレッドの荒野だよ。仏蘭西フランスの舗装路じゃない。それに懸架発条サスペンションはもうばっちり動作してる」

 その恰幅を収めるにはやや狭そうに見える運転席では、RFが真っ白な体毛に覆われた太い腕を使って体格からは想像もつかないほどせわしなく操縦輪ハンドルを回して“ブラッシュウッド号”の車輪が岩に乗り上げようとするのを巧みに回避している。運転は慌ただしく見えるが、RFの毛むくじゃらな兎顔に嵌まった真紅の瞳には余裕が浮かんでいる。操舵に合わせて車体が揺れるリズムに、これまた真鍮が鈍く輝く保護眼鏡を据え付けた飛行帽に開いた隙間スリットから伸びる真っ白な長い耳がゆらゆらと同調している。

「例の叉骨懸架ウィッシュボォン式にすりゃいいじゃねえか。本国イングランドのまともな蒸気自動車はみンなそうらしいぜ」

「それはいい考えだね。荒地を走る衝撃で折れた叉骨をぼくが修理してる間に、ユアサが獲物をたくさん狩ってきてくれるならすぐにでも」

 皮肉な台詞だが、縞ズボンを履いた脚を目にも留まらぬ速さで動かして踏板ペダルを踏むRFの声は弾んでいる。

「…おう。俺だってそのつもりさ。でもなRFよ…さっきからもう随分とこの赤い壁を見続けて爆走してるが、お前の言う獲物なンてとっても見えそうにないぜ。ほンとにこっちで合ってるのかよ」

 少しきまりが悪そうに鼻で息を吐きながら、ユアサは窓の外、高く聳えるウエストレッドの岩山―もう二時間はこの景色を見続けている―に視線を戻した。ユアサの視界はまた、赤い土の色ばかりになる。

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