第24話 進捗どうでしょう

「よし、全員集まりましたかね?」


 魔王様の部屋の隣、これまで幾度となく桜佳が研修・講義を行ってきた大部屋に、夜になって隊長と小隊長が集まった。

 出口に近い席には魔王様。そして中央の前方にいるのは、桜佳ではなくこの俺。


「プロジェクト開始から5日経ちました。これより、第1回のプロジェクト定例会議を始める、いや、始めます」


 俺の言葉に、全員が頭を軽く下げた。普通の大きさの魔族は用意した机に座り、巨躯の魔族はそのまま地面に座っている。

 ふう、言葉遣い、間違えかけたな。正式な会議だから、一応丁寧な言葉で話さなきゃ。



「魔王様、何か一言ありますか」

「んん? そうだな、今日は肌寒かったから、夕飯は温かいものだといいなあ」

「はい、もう結構です」

 お題は自由じゃないんですよ。



「なあ、桜佳。進捗と課題、どっちからやるのがいいんだ?」


 体を傾けて2つ隣に座ってる桜佳に耳打ちすると、「進捗が先の方がやりやすいと思うわ」と俺よりも高めの囁き声が返ってきた。


「ええと、まず始めに進捗の管理から始めます。各小隊、ここまでの進捗が予定通りかを報告して下さい。では、攻撃部隊、イフリートから」

「え、お、はい」

 急に指名されて、イフリートの小隊長が焦り気味に立ち上がる。


「えっと、まあ大体予定通りです」

「あ、はい、分かりました。では問題なしということで」


 手持ちのスケジュール表にちらっと目を遣る。よし、次はキマイラ――

「だーめーね。リーダーも小隊長もどっちも全然ダメよ」

 アドバイザーの鋭い声が飛んできた。


「いい、リバイズ? 『大体予定通り』なんて報告は意味がないのよ。せっかく具体的に日数決めてスケジュールに落とし込んだんでしょ? だったら、どのタスクがどのくらい予定通りなのか、どのくらい遅れる見込みなのかを確認しないと」

「わ、分かった」


 確かに桜佳の言う通りだ。細かく線を引いたのに、管理が大雑把じゃ仕方ない。


「いい? 。会議のやり方だってちゃんと覚えないと、ムダな時間ばっかりになって勝てるものも勝てなくなるわ。ちゃんと学んで、実のある会議にしていくわよ」

 彼女の言葉に、思いっきり頷くイフリート小隊長。


「桜佳先生、俺、今の言葉、凄く腹に落ちました……イフリートだけに」

「…………え、今のイフリート関係なくない!」

 遂にツッコミ待ちのギャグが!



「あの、では小隊長、もう一度報告をお願いします」

 再び彼は起立し、手元のメモを注視し始めた。


「はい。『手持ちの全武具の破損状況チェック』と『個々の攻撃能力測定』のタスクは完了しました」

「ちょっと待って。その2つは予定通りの期間で完了したの?」

 すかさず桜佳が手を挙げて口を開く。


「ええ、はい。予定期間内に完了しました」

「分かったわ、ありがとう。リバイズ、今みたいに、個々のタスクが予定通りだったかも確認してね。そこにズレがあれば、次回以降同じタスクを組むときに修正できるから」


「あ、ああ、分かった。それで、報告の続きを」

「はい、『攻撃パターンの検討』ですが、少し検討に時間がかかっていて、延びそうです」


 えっと、こういう場合は日数と理由を確認するんだよな。


「具体的にはどのくらい延びそうですか? あとは、その理由も教えて下さい」

「3日で終わる予定となってますが、4日かかりそうですね。火炎と武具による同時攻撃の効果が高そうということに気付いたので、このパターンをもう少し検証したいんです」


「なるほど。この遅延は問題ありませんか? 他の小隊の皆さんのタスクに影響あったりしませんか?」

 辺りを見回すと、みんな無言で小さく首を振っていた。WBSを確認しても、後続タスクへの影響はなさそうだ。


「分かりました。ではイフリート小隊はこれで報告終わりです」

「ありがとね、リバイズ。みんな、ちょっといいかしら?」

 俺の進行を「ごめんね」と手刀てがたなで遮って、彼女が立って話し始める。


「みんな、今のやりとり聞いて、正直『こんなに細かくやるのかよ』って思ったと思う。ワタシも昔同じように思ったわ。でもやっておいた方がいいの。こうやって毎回細かく積み上げていけば、急にトラブル発覚、なんてこともなくなるから。だからよろしくね!」

「はい! 分かりました!」

「桜佳先生の話、勉強になります!」

 部屋に響き渡る賛同の言葉。ううむ、先生の信頼感スゴいな……。



「先生が『この薬を飲めば空飛べます』って言ったら飲むよな」

「むしろあれだよ、先生を『この世界の真の救世主』ってことにしてケーカクに向かわせれば、向こうの人間もみんな信者になって――」

「発想が怖いよ!」

 普通に勝ちませんか、ねえ! せっかく準備してるんだからさ!



「ええと、じゃあ次、キマイラ、お願いします」

「はい。んん……まあその、大体予定通りですね」

「さっきの注意聞いてなかったの!」

 思わず敬語やめちゃったよ!


「あの、詳細に報告お願いします」

「はい。えっと、『手持ちの武具の破損状況チェック』は予定通り……」

 こうして、報告を聞きながら、口頭で補足があった点をメモしていく。


「あと、イフリート小隊と同様、キマイラも『攻撃パターンの検討』は完了しませんでした。数日延びる想定です。以上です、リバイズリーダー」

 おお、リーダーって言われると気持ちがいいな。


「分かりました。延びる理由は何ですか?」

「少し寒くなってきたからか、尻尾の蛇が冬眠状態に入り始めてですね。慣れるまではライオンとヤギにも眠気が伝染するんで頭働かないんです」

「そんな仕組みなの!」

 道理でさっきからボーっとしてると思ったんだ!





  

【今回のポイント】

■定例会議での進捗管理

 定例会議の主要な議題の1つが進捗管理ですが、その目的は進捗それ自体を見ること以上に「着地予想」を見ることにあります。着地予想とは即ち、今の状態で進んだ場合、プロジェクトが期限までに完了するか、ということです。


 そのため「概ね順調です」「全体的に若干遅れてます」という大まかなレベルの確認にはあまり意味がありません。

 それぞれのタスクごとに問題なく完了したのか、遅れているとすれば、その原因(なぜ遅れたのか)と結果(どの程度遅れそうなのか)、更に影響(後続のタスクに影響はないのか)を明確にしましょう。


 そしてもし、解決を要する「ある課題」のせいで遅延している場合にはどうするか。それは、次のテーマ「課題管理」で触れていきます。

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