布教フェイズ
どのようにデスメタルそのものに興味を持ってもらうべきか。結果、四つの方向からアプローチを掛けられると私は考えた。
一つ目『楽曲』
デスメタルの楽曲と言えば、淀んだ激しいグロウル、テクニカルで歪なギターにベース、高速のドラムが組み合わさって出来ている。
例えばギターを弾くことが趣味だよという人がいればデスメタルの複雑なギターリフに興味を持ってもらうことが出来る。Brain DrillやSpawn of PossessionにGorodといったテクニカルデスメタルを紹介すれば一聴でナンダコレハーとなるはずである。
そうじゃなくとも、普通のオールドスクールデスメタルでも十分並みのロックからしたらよく分からないギターリフを行う。
二つ目『ジャケット』
グロテスクなイラスト、スプラッタホラー映画など好きな人であればデスメタルのジャケットは一目置くだろう。
王道のCannibal Corpseの他にもDevourment、Disgorge、Flesh Consumed……あとなんかその他スラムデス、ブルデス、グラインドコア系。
三つ目『歌詞』
難解な単語が多いため英語力が高まるかも知れない。英語ワカンナイデース。
四つ目『グッズ』
バンドTシャツやパーカーキャップなどアパレル系。ポスターやステッカーキーホルダー、マグカップ。バンドによるがグッズはある。特に最近ではMetallicaやAC/DCやIron Maidenなど往年のメタル、ハードロックバンドのTシャツをコーディネートの一つに取り入れることが流行っているらしい。そのためMetallicaをブランド名と勘違いする人もいるとかいないとか。
「でどうだろう
「あ、ごめん聞いてなかった」
土曜日、学校も休みなため私は次海を遊びに誘い、公園のベンチで休憩していた。グレーの薄手のニットのカーディガン、白いブラウス、紺のデニムスカート、低いデニールのタイツに黒いローファー。夏が終わりかけ涼しくなってきたこともあり秋の装いにシンプルな白いトートバッグを抱えた彼女はいつも通り音の漏れたイヤホンを着けて私の隣に座り、私の話を話半分で聞いていた。
先程気づいたのだが、次海は半開きな重い
「次海ちゃんは結局どんな音楽が心地よいの?」
「ん……最近気に入ったのはこの辺かな、プレイリストにしてる」
「どれどれ」
私は次海に手渡されたプレーヤーを見てみることにした。
ジャズ、ダブステップ、スカ、ハウス、K-POP、J-POP、クラシック、ハードコア、テクノ、アンビエント……その他諸々と脈絡が一切ない。更に先日聞いていた曲はお気に入りリストに入ってないらしい。そもそもどんな曲だろうとあんな大音量にしたらノイズと同じなのではないだろうかと私は考え始めた矢先——
「Cryptopcyだ!」
1988年にカナダで結成されたデスメタルバンド。全ての楽器陣のテクニカルさは一級品で、特にドラマーのFlo Mounierはデスメタル界最速のドラマーとして名が知られている。
「その曲もデスメタル?結構好き」
「好き!?デスメタルを!?」
「うん」
「次海ちゃん……しゅき」
私は彼女が天使に見えた。いや
「ピピーッ!不純同性交遊法違反の疑いで惑星警察から逮捕状を持ってきましたよー!」
薄緑色のブラウスに、ダークグレーのキャミソールワンピース。ミドルカットの黒いスニーカーと明らかに警察から程遠い格好の
「あーもう良いとこでしたのに出ちゃダメじゃないですかー」
薄茶色の風船のようなボリュームのある袖のスウェットに、ぴっちりと過不足なく脚の形を出した九分丈の黒いスキニー。オレンジ色のローカットスニーカーを履き茂みから飛び出たからか、落ちそうな眼鏡を摘みながら識の後を追う
そして二人はベンチに座ってる私達の前に立った。
「何やってるの、二人とも」
私は隣に座る次海に抱きつき堕天使な胸に頭を埋めながら下唇を噛みながら不満そうな目で二人の方を向いた。
「もーコルナちゃん!ピピーッて言ってるでしょ!めっだよ!」
識は腰に左手を当て中腰になり私の鼻先に右手の人差し指をつんと当てた。
「私は止めたんですよ、デートの邪魔しちゃ悪いですし」
目を左に逸らし手を顔の前であたふたと振る有津実。デートじゃないし。おそらく識が何か言ったのだろう。
「この二人は?」
そういえば次海はこの二人に合うのは初めてだ。
「私の友達。緑の方が識。眼鏡の方が有津実。」
「私は認めないよ!露出狂にコルナちゃんを任せるのは!」
「露出狂?」
こちらを見る次海。
「あなたが日々日々外で公開××××してることはコルナちゃんからごほっふごっや、コルナちゃんやめっ」
識が急に下品な話をしたため腹パンする私。すると次海は立ち上がった。
「宮古さん……!話したの?」
「いや、私にもすぐに話してくれたから良いかなって……ダメだった?ってあれ次海ちゃんどこ行くの!?」
一瞬だけ見えた次海の顔は紅く恥じていたのか、早足でこちらを見ることなく公園を出た。そのまま姿が見えなくなった。
「あれ、私ダメなこと言っちゃた……?」
立ちすくむ識と影が薄い有津実。それと私。実際、誰が悪いわけでもなく私達と
×××
「そう考えようとしてもさー」
私達三人はその後、私の部屋にいた。次海と公園にいた時間は短く、その後の時間も余っていたため、なし崩しに歩いて行ける距離だった私の家に行くことになった。
お通夜状態の中、私達は丸いテーブルを囲うように座り、ぽりぽりと無言でお母さんがくれたおかきを食べるしか無かった。そして小一時間もしてしびれを切らした私が言った。
「私が悪いよね。明らかにあの電車の中、ひそひそ声で私だけに聞こえるように言ってたし」
「え、それは初耳ですよ!」
「……」
驚く有津実と流石に堪えているのか何も言わない識。どーすんだこの空気。
「えっと、それにしてもコルナさんの部屋って初めて来ましたけど……意外と普通ですね。もっとおどろおどろしいかと思ってたんですけど」
コルナの部屋は二階の一部屋で、階段を上がってすぐ、二部屋あるうちの最初に見える方だ。六畳ほどのフローリングの床に白い無地の壁紙。廊下側の壁に面したベッドには空色のシーツを掛けており、ベッドの向かい側の壁に面した机には教科書や筆記用具が一見散乱しているように見えても、どこに何があるか判断出来るほどに整頓されている。その隣には本棚があり、漫画や小説、ゲームセンターで取ったであろう小さな牛のぬいぐるみが陳列されていた。隣の部屋に面した壁にはクローゼットが取り付けてある。クローゼットの向かい側と本棚の隣にある二つの縦に長い窓からは日差しも良く入り明るい。この曇りの一点も感じさせない部屋からは、とてもコルナがドス黒いデスメタルが大好きな女子高生とは思えない。
「私も前はポスターとか貼ってたんだけど親がうるさくってね、クローゼットにしまってあるんだけど」
「どんなのですか?」
私はクローゼットを開き突っ張り棒に掛けた普段着や制服を押し退けて、奥の身の丈ほどの幅の半透明のプラスティック収納ケースからポスターを取り出した。
「こういうの」
「これは……ちょっとダメだと思います」
「そうかなー?」
私と有津実がたわい無い会話をしていると今まで無言で座っていた識が急に立ちあがった。
「うん」
上を向き胸のあたりで右手を握りしめて何かを決意したように微かに聞こえるくらいの声で言い、私の方を向いた。
「コルナちゃん、今から次海さんのところに行こう!」
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