2ページ

 濡れた髪を雑にタオルで拭きながらフライパンを返す。我ながら火加減は完璧だ。割ったところからチーズと明太子がとろりと出て来るに違いない。あーよだれが止まらん。

 だし巻は熱いうちに限る。既にテーブルにセットされたおつまみたちのもとへ、だし巻と共に参る。右手にはだし巻、左手にはビールだ。

「いただきまーすっっっっあぁぁぁ~!!」

 うっま~い! 風呂上りはビールに限る! ビールはこの喉越しが良いよな。ありがとうビール作ってくれた人。

「はふっ」

 湯気の上がるチーズと明太子の入っただし巻卵を口に運ぶ。うーん、このハーモニー最高か。なんでこんなに卵と卵って相性が良いんだろう。美味しいからいいんだけどさ!

「もうちょいかな」

 以前居酒屋で食べた滅茶苦茶に美味しいめんたいチーズだし巻がもう一度食べたくて、何度も何度も練習してここまで近づけることが出来た。これでもまだあの店には届かないんだけど。んー、悔しい!

「あー、でも美味いわ。俺天才だわ」

 酔いが回った訳じゃない。他に言ってくれる人がいないから言うだけ。だってブリ大根も漬物もミノの湯引きも美味しいもん。全部簡単なものだけど。

「てっさと言えばこれだよな」

 湯呑に浮かぶのは炙ったふぐのヒレ。レンジでチンして気軽に美味しいヒレ酒の完成だ。

「っっあぁぁぁぁぁ・・・!! イイッ!」

 最高だわ。てっさ食べながらヒレ酒とかすっげー贅沢してる俺!

「幸せ」

 独り晩酌が寂しいとか、手酌はどうのこうのとか、そんなのどうでもいい。美味けりゃそれでいいんだ。美味しい肴と酒が飲めればそれだけでいい。それだけで俺の人生は輝くわけで。

“自分を輝かせられるのは、自分しかいない”

 子供のころ言われた言葉だ。それはきっと“努力”をしなければ“素敵な大人になれない”と言うことを言っていたのだと思う。確かにそうだと思う。自分を磨かなければ輝かないのだから。

 では自分を磨くとはどういうことか。その答えはその言葉の前にある。

“あなたの人生の主役はあなた自身。自分を輝かせられるのは、自分しかいない”

 自分の人生の主役は自分自身。自分以外の誰かが主役になることはないし、自分が脇役になることなんてない。ステージの真ん中、ずっとライトが当たっているのは辛い時も楽しい時も自分自身なのだから。

「さいっこう」

 主役である自分が輝くために、今日は自分を甘やかして大好きな酒を飲む。明日からはまた頑張るし、頑張れる。そうやって辛いことも乗り越えていく。主役はいつだって山あり谷ありで成長していくものだから。いつかはカメハメ波も打てるかも? なんて。

「あ~美味い」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る