君と僕との距離。
零
第1話
とある辞書によると、幼馴染みというのは男女問わず幼い頃を共に過ごした人らしいが、そんな人は、大きくなっても仲良くしているかは別として、みんな多かれ少なかれいるだろう。
僕にも、今でも仲が続いている幼馴染みが1人いる。
名前は
漫画でよくいるような絶世の美女というわけではないけれど、ショートカットで、キリッとしたつり目で、ボーイッシュみたいな感じで。
僕は、当り前のように彼女のことが好きだった。
どれくらい好きだったかと訊かれれば、そりゃもう今まで付き合った人が誰もいないってくらい一途に好きだった。
え? も、モテなかったわけじゃないからね?
しかし幼馴染みならいつかは付き合えるだろうみたいな希望は、中学3年生の時、彼女がイケメンの同級生と校舎裏で話しているのを見た時に消えた。
そして、イケメンの方がお似合いだと思った僕は、彼女のことを諦めることにした。恋を諦めた。
ちょうどその頃、思春期だったということもあって、お互いをなぜか名字で呼びあっていたり、クラスが違く話す機会も減って、諦めるにはちょうどよかった。
あれから2年。
高校2年生の夏。
僕は――
って、早く家を出ないと怒られる。
とりあえず菓子パンを手に取って家を出て、マンションの階段を3階から降りエントランスへと小走りで向かう。
自動で開くドアを通ってマンションの前に出ると、1人の女の子が自転車にまたがって待っていた。
「遅いぞー」
「ごめんごめん」
「あ、寝癖ついてるよ?」
「直らなかったんだよ……」
他愛ない会話で始まる毎朝。
「自転車取ってくる」
「早くしてねー」
急いで自転車に乗り、学校へと漕ぎだす。
とまぁここまで言えばわかるかもしれないが、そう、この女の子こそ僕が好きだった橘恵美理なのだ。
……言い訳をさせてほしい。
同じマンションに住んでいるので完全に接点を持たないのは無理だと思っていたのだが、まさか同じ高校だとは知らなかったのだ。いやほんとに。
「ねぇ
「数学の?」
「うん」
「なんでやってないんだよ」
「いやー、昨日やろうとしたら寝ちゃって」
そしてなぜか高校生になってからまた名前呼びに戻り、なぜか一緒に自転車で登下校をしている。
「昨日のテレビ見た?」
「テレビってどれさ」
「あの深夜にやってたお笑い番組だよ。面白かったー」
「いや、見てないな……って、深夜に起きてんじゃん!」
「あ、ばれた」
「はぁ……」
「いいじゃーん」
「なにもよくない」
「だって難しかったし颯太に教えてもらおうかなーって」
「う……」
「だめだった?」
じ、自転車に乗りながら上目遣いなんてするなっ!
肘をハンドルに乗せて運転しているだけで、彼女のことだから意識してやってるわけではないんだろうが……ってか、自然にやってる方が怖いわ!
……ああ、こんなんじゃだめだと思っているのに。
折角諦めたのに、また意識してしまいそうになる。
世の中には「惚れたら負け」みたいな言葉がある。
それは本当のことだ。事実だ。
この僕が言うのだから間違いない。
好きな人の言動は少しくらい悪くても補正がかかって許せてしまう。
しかし、今僕に必要なのはそんな敗者の言葉ではない。
僕はもう恵美理に振り回されるのはごめんなのだ!
また好きになったら嫌だもの。
そう、勘弁してほしいのだ。ほしいのだけれど……
「し、仕方ないな」
「ありがとっ、颯太」
そ、そんな笑顔を見せられたら断れないじゃないかっ!
どこかに、幼馴染みを好きにならない方法ってないんですかっ!?
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