第3話 無月と花恋
僕には両親がいない。両親は僕が幼い頃に事故で亡くなってしまった。だけど、一人にはならなかった。というのも歳が一つ下の妹の花恋がいたかららだ。だが、当時の僕らは幼く、二人で生きていくのには無理があった。だから僕は父親の方の祖父母の家に、花恋は母親の方の祖父母の家にあずけられたが、それでも、お互いが高校にあがる時に血のつながった兄妹がずっと離ればなれでは可哀想だという両祖父母の気持ちと、僕らの希望もあり、晴れて一緒に生活できるようになった。家は両親がまだ生きていた頃に住んでいた一軒家で生活しているのだが、二人で住むには少しばかり広い。
「ただいま!」
僕が台所で夕食を作っていると、花恋が高校から帰ってきたので、台所にまで明るい声が聞こえてきた。僕と花恋の通っている高校は違うため、一緒に帰ることはほとんどない。
「おかえり、花恋」
「あ!兄さんが何で夕食作ってるの!?家事とかは全部花恋がやるって言ったじゃん!」
花恋は僕が夕食を作っているのを見ると、そんなことを一目散に問い詰めてきた。そうなのだ。花恋はこの家の家事を何故か自分が全部こなすから僕は部屋でゆっくりしていろと言うのだ。
「いつも言っているが、一人じゃ大変だろ?いくら花恋が手なれているからと言っても」
「全然大丈夫だって花恋もいつも言ってるよね!良いから兄さんは部屋でゆっくりしててよ!後は花恋がやるからさ」
こんな会話を毎日のようにしているが、いつも花恋に根負けして、僕が折れてしまっている……。だが、今日ばかりは僕の帰りがいつもよりも早かったため、僕の勝ちのようだ。
「だがな花恋、ひと足おそかったな。もう夕食はできてしまったよ」
「な!もう!帰ってきたら兄さんは部屋でゆっくりしててよ!」
自分の思った様にいかず、花恋はだいぶ激情していたが、僕らは料理を机に運び、夕食についた。
「花恋には及ばないかもしれないが、上手くできているだろ?」
「おいしいよ……。でもね特にさ、家事の中でも食事を作ることだけは花恋にやらせてよ……。だからって他の家事はやって良いとは言ってないからね」
僕が夕食を作ったことを拗ねているのか花恋の声がいつもよりも暗い気がする。だが何故、食事を作ることが特にしたいのだろうか?
「何で、家事の中で特に食事を作ることだけは自分がしたいんだ?」
「だって、花恋が作ったものを兄さんが喜んで食べている顔が見られるんだもん」
そんなことを急に言われても反応に困るが、そう言われて悪い気はしない。その位、僕のことを大切な家族としてみてくれているという事だ。僕が喜んでいる姿を見ることが花恋にとっては嬉しいことなのだろう。
「花恋はね、兄さんとこうして生活できる日をずっと待ってたんだ。お母さん達が死んじゃって、まだ幼かった私達は長い間、離ればなれになっちゃったから……」
「そうだな……。僕も花恋とまた生活できるようになって嬉しいよ」
母さん達が死んでから花恋は大分寂しい思いをしたのだろう、今の花恋にはいつもの明るさをまるで感じない……。
「だからね、また一緒に生活できるようになったらね、あの頃、兄さんが花恋のことをいっぱい助けてくれたみたいにね、今度は花恋が兄さんのことをいっぱい助けてあげたいって思ってたんだ……」
花恋が家事を全部やりたがることに、こんな理由があるとは思わなかった……。そして、それを知った僕が今できる事はそんな花恋の思いに答えることだろう。
「分かった……。食事は花恋が作ってくれ、僕は特別なことでもない限り家で料理はしないからさ。ただし、それ以外の家事はいくらか手伝わせてもらうからな」
「もぅ……。花恋が全部やるから良いって言ってるのに、でも、ありがとう!兄さん!」
「この位、兄として当然だろ」
気付けば、花恋はいつもの明るさを取り戻していたので、僕はそれをとても嬉しく思えた。何より、今だけは詩音や真衣のことも忘れることができたと思っていた……。
「ねぇ兄さん」
「何だ?」
「この先も花恋とずっと一緒にいてよね!たとえ、どんなことがあっても花恋のことを一人にしないでね!兄さん♪」
そんな言葉を聞いた時、僕は花恋の中に真衣と似たような何かを感じた……。それゆえに僕は、ただただ、それが勘違いであって欲しいと祈るしかなかった……。
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