さくらだファミリア

徳田吉信

第1章ー1 旅立ち

 

それは2060年5月の事だった

「じゃあ忘れ物は無いわね」

「大丈夫ですよ。元々ものをもっている方ではないので」

日本の成田空港で2人の女性が話をしている。一人は大きなカバンを持って、もう一人は見送りにきたのだろう。初老の女性が立っていた。


「それにしても急な話よね。5月から転入なんて。でも施設でもあなたは周囲から頼られていたし、向こうにもすぐ馴染むと思うわ。がんばってね。小峰さん」

「ありがとうございます。秋峰先生」


「アヴァロンは治安のいい国だから安心してね。それにあちらで一番のキャメロット学院に推薦されたのだから、あなたはきちんと評価されているんだから」

秋峰は少し気楽な様子で話す。それに対する小峰絵里の表情は複雑だ。成績で評価されたわけでは無く一週間前の夜の出来事が原因であることが彼女には解っていた。


手の甲を少し見て

「そうですね。向こうでも施設を出たことを誇りにして頑張っていきます」と作り笑顔を浮かべた。


アヴァロンという国には日本からの直接便が無い。成田空港からイギリスまで12時間。そこからロンドンで飛行機を乗り換え3時間。


彼女は16年間生まれ育った国から旅立ち、アヴァロンに向かった。

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