57,好きなことを仕事にする人、しない人
杏子ママが厨房へ戻った後も出口の見えない話は続いていた。僕は西方さんの秘密を喋ってしまい、後悔と罪悪感が増してきている。
いまの僕が西方さんをどうにかできるわけではないけれど、彼女が仙台へ引っ越した後も連絡を取り話を聞いたり雑談や創作について話す、要するに一人の友人としてなら支えになれるかもしれない。そんなところで話は落ち着きつつある。
「西方さんは
なんだって!?
「植野!? ていうか友恵、知ってたの!?」
植野は文庫本、ハードカバーは問わず月平均10冊を読破する本の虫。僕ら三人と植野、そして西方さんは1、2年次に同じクラスで、植野は学問の成績は優秀なお調子者というイメージ。西方さんと付き合うのも納得だ。
「知ってたっていうか、‘名古屋’でピンときた。真幸は西方さんが個人特定されないように配慮したんだろうけど、わかっちゃったんだなこれが。そっか、大変なんだね。植野、西方さんと会うために仙台に通うのかなぁ」
「そうよねぇ、仙台なんて、高校生の恋愛には非現実的な距離よね。だったらむしろ恋愛より、私たちみたいに何か熱中できるものを見つけて、それに打ち込んだらいいのに」
「そりゃあね。でもそういうのを見つけられる人って、少ないんじゃない? 私は家で母親に酷いこと言われまくって、そのとき湧いた感情を漫画にぶつけて出版社に送ったら認められてっていう流れできたけど、何か心にでっかい影響を与えるきっかけがないと」
「だとすると、植野は活字本かな? そこに書かれてる内容が衝撃的だったら……」
「本に何かターニングポイントがあればいいけど、いくら本を読んだって、自分でそれを書こうと思う人も限られてるんだよ。例えば巷でよく見るアニメとか電車のオタクのうち、それを職業にしようと門を叩く人って、実は結構少ないんだ」
「いやそれはだって、アニメは才能が必要だし、電車はなんかすごく難しそうだし」
「それは挑戦しなきゃわかんないじゃん! だいたいどうせ大人になったら就活しなきゃいけないんだし、なら好きなものを仕事にしたほうが良くない!?」
「あ、はい、おっしゃる通りです」
友恵の熱気に圧され、僕は返す言葉がなかった。好きなものを仕事にしない人にも理由はあると思うけれど本題はそれではなく、植野が西方さんと快くお別れするにはどうするか。いや違う、別れるか否かより、西方さんを幸せに導くにはどうするかだ。
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