22,心の距離

 温泉、それは心もからだも癒す、身近なオアシス……。


 15時を過ぎて雨は止み、雲間からは陽が射し込んで、どこからかヒグラシやアブラゼミ、ミンミンゼミの声が聞こえる。


 あぁ、岩露天風呂さいこ~。わいわい騒ぐ爺さんたちのガヤをBGMにこのまま眠ってしまいそうだ。


 それに壁の向こうには生まれたままの星川さんが……! しかし衆人環視下で‘暴れ棒’将軍になるわけにはいかない。


 のぼせない程度に温泉を満喫したら、広間で風呂上がりの瓶牛乳を一気飲み。


「ぶはーっ! たまんねぇ……」


「おう、待たせたな清川真幸」


 ちょうど2本目の牛乳を飲み干したとき、げっそりした星川さんがアウターを抱えて女湯の暖簾のれんからひょっこり出てきた。


「うあ~、浴室で水飲んだのにもうだめだ~」


 ゾンビ化した星川さんは僕を寄る辺と認識したのか、ぶらぶらバサリと胸に飛び込んできた。前のめりで不安定のためからだが倒れないように抱き寄せる。


 おっ、おう、アカン! 僕の腹に星川さんのお胸が当たってる! しかも風呂上がりのいい香り! うおっ、おおおっ! アソコがっ、アソコが疼くっ! 彼女の荒い吐息が僕のリビドーを加速させてどんどん元気になってゆくっ! とりあえずお尻鷲掴みしていいですか!?


 が、しかし、サウナにでも長居したのか星川美空のボディーがスクランブル信号を発信しているのは明白。お触り&スッキリどころではない。


 僕は星川さんの腕を肩に回し目の前の自販機で牛乳を購入。アームがウィーンとおもむろに牛乳瓶を掴み、取り出し口に落とした。緊急事態で一刻も早く飲ませたかったので、さっきまでは見ていて楽しかったその動作がもどかしかった。


 紙の栓を取り除き、星川さんを座敷に座らせて牛乳を飲ませる。星川さんはまともに口を利ける状態ではなく、口に含んだ牛乳の一部を飲み込めずに端からたらたらと滴り落としていた。



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