12,幼稚園バスみたいな路線バス
「では、またあした」
「はい! またあした!」
19時を過ぎ、陽は沈んで空は
ぼんやりした蛍光灯が照らす車内の青い座席にはキリン、サル、ゾウなどアニメチックな動物のイラストが描かれていて、白地の車体にもそれが描かれている。このバス会社の茅ヶ崎営業所には約100台の車両が在籍していて、そのうちたった一台しかないレアものなのだとか。
幼稚園バスみたいに可愛らしい箱の中に収まっているのは清川さんや疲れ顔のおじさまたちという現実がシュールだ。
でも、清川さんにはちょっと似合うかも……。
初めて出逢ったあのときも、きょういっしょに行動していたときも、彼はこんな私に終始照れ顔で、それがちょっとかわいらしかった。男の子に『かわいい』はご法度というから黙ってはいるけれど、私がそう思っているのを彼は気付いているんじゃないかなって、なんとなくそう思う。
個人経営の薬局を横目に西へ数メートル、道路を挟んで南側のニューヨーク雑貨のお店はテレビでも紹介され、ネイビーブルーとホワイトの外壁に『買い物で人を幸せにしたい』という旨の英文が記されている。
趣味のお店が多いこの街には、自らのクリエイティブなセンスでひとを幸せにしたいという気風がそこかしこに漂っているなと、最近感じるようになった。
横断歩道を南へ渡って雑貨屋さんの前に移動したら右を向き、信号待ち。二段階右折。南西角地にはコンビニがあり、明日、清川さんと待ち合わせる場所だ。私はそこで絵本用の自由帳を買って帰る。
この位置に立つと西の空がよく見えて、まだ
夜の訪れは、遥か彼方の地に海に、新しい朝が訪れるサイン。太陽は一日で地球のすべてを見回すけれど、私の行動範囲は湘南という狭い地域が主。きっと一生をかけてでもこの星のすべては知り得ない。日々ふとしたときに、そんなことを考える。
ところがきょうは、清川さんが私の知らないノンフィクションの物語を教えてくれた。彼はきっとこれからも、私に新しい世界を覗かせてくれる。創作という孤独との闘いに、新たな希望が見えた気がした。
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