10,美空の自由な自由研究
『雑草1』!
『雑草2』!!
『雑草3』ッ!!!
星川さんの研究レポート『植物』の章。池に自生する植物のイラストの上にそう記されていた。
僕は一瞬、目を疑った。けれど何度パチクリしても記載内容は変わらず『雑草』。
ちなみに雑草1はガマ、2はセリ、3はミソソバという植物。
あぁ、なんて雑な記録だ。雑草だけに。三つとも雑草というほど無名ではないが。
いや違う! 大らかなんだ!! さすが僕の駄洒落を受け止めてくれるだけある!!
しかしこれではきっと先生に叱責されてしまう。
イヤな予感しかしないので他のページを見てみると……。
『中くらいの鳥』
『大きなカエル』
『ヒロオビトンボエダシャク』
ムクドリとガマガエルはわからないのにマニアックなガは知ってるんだな。ヒロオビトンボエダシャク、トンボのような胴体だが、翅は黒をベースに白い斑模様のガ。
続いて、オレンジのトンボ、セキセイインコ、ダルメシアン。
野生動物とは思えない生きものも散見されるが、良いのだろうか。しかしどれもイラストだけは丁寧かつ忠実に描かれている。
「あの、ダルメシアンは、えーと、飼われて、ますよね?」
それとも調査対象を野生に限定していないのだろうか。
「えっ!? どうしてわかったんですか!? 確かに実は飼い主さんとお散歩していたワンちゃんですが、首輪もリードも省略して描いたからバレないと思ったのに!」
「え、いや、だって、その……」
こいつなめてんのか!! それともお嬢様だから世間知らずで茅ヶ崎に野生のダルメシアンが生息しているとでも思っているのだろうか。一説によればクロアチア原産だそうだが、実際のところは僕も知らない。
「セキセイインコも、誰かのお家とか、学校で飼ってる子ですよね?」
僕は努めて平静に質問を続けた。
「いえ、インコちゃんは野生です! サン〇ビーチの裏道を飛んでました」
サン〇ビーチは一中通りに構える昔ながらの手作りサンドイッチ屋さんで、パン類の他に駄菓子やドリンク、氷菓も販売している、東海岸育ち御用達の小さなお店だ。
「いやいやそれどこかから逃げた子だから!!」
しまった! 思わず感極まって本音丸出しで突っ込んでしまった! この数分間で見てはならないものを見てしまった気がするが、なんだかんだで一度でも惚れた女性には嫌われたくないものだ。
「えっ!? そうなんですか!?」
「そうです!!」
星川さんは心底驚いた表情をしている。そうか。まぁ驚くのも無理はないような気がしなくもない。アメリカザリガニとかアヒルとか、市内で外来生物をよく見かけるのは確かだ。
インコみたいに小さな動物は天敵に攻撃されやすい。自由に空を飛び回るのも良い気がするけれど、とりあえず明日にでも見かけた旨のビラを作って周辺地域に貼っておこう。
「そうですか……。でもどうしましょう。他にもアナコンダとかコツメカワウソとか、ペットショップで見かけた子をたくさん描いてしまったし」
自業自得としか言いようがないけれど、ツッコミどころ満載の星川さんといるのはなんとなく楽しいし、微力ながらご助力させていただこうか。
「わかりました。僕にアイデアがあります」
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