世界消滅と消滅少女

本陣忠人

世界消滅と消滅少女

 新年を迎えて一週間と少し。

 名目上は二学期制を謳っているにも関わらず何故か存在する――短い冬休みに終わりを告げて登校し――これまでの人生において、脳死状態で散々享受してきた――いつもの生活をいつも通りに、極めてのんべんだらりと甘受して。


 日に日に強まる寒さに身を硬くしながら下校していた時だった。

 街頭のオーロラビジョンや個人の情報端末、ありとあらゆる情報機器が申し合わせたみたいに一斉に――それでいて、まるで叫ぶみたいに大きくけたたましく、本当に空気も読まずに鳴り響いた。


 政府からの重大な報せだというそのニュースは余りにも空前絶後な内容であり、凄まじく荒唐無稽な発表で、そしてボク個人にも限りなく関わる事柄であった。


 曰く、


【一週間後にこの地球は消滅します。詳細は超国家機密なので伏せるが、まず間違いなく滅びます】


 白髪の首相が迂遠な言葉で長々と説明したその文言を要約すればこんな感じ。

 その旨は正に青天霹靂的で衝撃的ではあるが、僕の気がかりはその後に続いた可能性の話だ。


【しかし、唯一人類が助かる道はこちらの少女「寺山テラヤマ サチ」であります。彼女の存在こそがこの未曾有の危機に立ち向かう鍵なのです】


 そうやって壇上に立たされてハニカムように俯向うつむいた少女は僕のクラスメイトで、小学校からの片思いの相手だった。


 その後はぼんやりと曖昧で記憶に薄い。


 真剣な面持ちで世界が一丸となった『国連軍』がどうとか、常識を超えて物騒な事を言っていた気がするが、僕の頭を衛星のように廻るのは慣れないフラッシュや大衆の視線に晒された彼女の姿と昔読んだ漫画のことばかり。何だよ『最終兵器彼女』かよ、糞が! 死ぬ程笑えねェ…。


 悪態と絶望のルサンチマンが体内を循環してそれが何処か遠くに排泄された頃家に着き、混乱と狼狽で多少取り乱す母親を諌めて自室に戻った。


 膝が折れたようにベッドに寝転び、帰宅途中に聴いた出来事を反芻する。


「世界の滅亡とか…ハぁッ? そんなの、リアリティが皆無過ぎていっそウケるわ――」


 枕に顔を押し付けて彼女の顔を、寺山さんの姿を思い浮かべる。

 欠席していたし心配だったんだよなぁ…。LINEしてみようかなあ…。


 けれど『国連』がどうとか言っていたし、そういう世界政治に統治された意味分かんないくらいの監視下にあるのであれば、そもそも個人的な連絡とか付くのだろうか?


 いまいち実感を伴わない非現実的な二つの"事件"を思いながら、僕は個人的な祈りと共に、いつもどおりに眠りに着いた。


 明くる日、部屋の外である外界の喧騒に引き摺られるように起床した僕が目にしたものは予定を早め、一晩にして消滅した無味乾燥の焦土では無く―――、


 現実に耐えかねた衆愚が暴徒と化し、地獄の様な光景が冗談みたいに蔓延はびこる世界だったんだ。

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