才女と刀

白羽スギ

プロローグ

第1話:伝承

 俺が生まれた街には、古くから伝わる不吉な伝承がある。

 それは、相架山そうかやまという地元にある標高数十メートルほどの小さな山にまつわる伝承で、具体的には、その相架山で神隠しが起こるというものだ。

 実際のところ、これまで被害に遭ったという話を俺は生まれてこの方聞いた試しがないのだが、それは山のふもとの交番が自治体と連携して登山口を監視し、山への不当な侵入を防いでいるおかげかもしれない。なんにせよ、地元の住民はなるべく近付かないように心がけている場合が多い。俺もその一人だ。

 そこまでするならいっそ切り崩してしまえばいいのでは、というのはごもっともな意見だが、田舎の貧乏な自治体には最悪しなくても済むことにコストをかけられるほどの財力がない。だから、山の存在を受け入れるしかないというのが悲しい現実だ。

 それにしても、神隠しなど本当に存在しうるのだろうか。

 相架山では過去に自殺者が相次ぎ、邪気が蓄積しただかなんだかで神隠しが起こるようになったというような話を聞かされたことがあるが、そんなオカルトチックな現象が起こるとは正直考えにくい。きっと、どこかの誰かが適当に吹いたホラ話が噂となり、誰も無責任に否定することができなかっただけではないか。内心ではそんな風に思っていた。


 しかし、いつだって、火のないところに煙は立たないのだ。

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