初恋

ユウ

第1話


 その人はとても素敵な人だった。

 その所作、行動、容姿全てに僕は見惚れていた。


 長い黒髪は美しく、彼女が動く度サラサラと流れ、光を浴びれば、そこに光の輪を作る。

 きれいな黒い瞳に、よく整った鼻立ち、その下にはぷっくりとしたきれいな唇。


 僕は恋をしていた。あの人のためならどんなことでも捧げることができる。

 だけど、僕は何もできずにいた。ただ遠くから眺めるだけで、たまに近くに来ることはあるけど、彼女の香りだけでノックアウトしてしまうのだった。


 彼女のことを考えると何も手につかず、一日中でも考えてしまう。まさに、彼女のことで頭が埋め尽くされてしまう。

 これが恋というものなのだろうか。

 彼女の笑顔は素敵で、僕の心は癒されるどころか、溶かされてしまうようだ。


 僕には好きという気持ちがどこから来るのかが分からなかった。ただただ内から湧いてくるのだ。

 それが僕の中に広がって、僕はどうしようもない気持ちになる。

 恋はずるい。すべてがその方向に向いてしまうから。

 考えていること、好きだったこと、はては僕の行動や言葉にまで。

 だけど、もちろんそれで嫌な気持ちはしない。僕を変えることで少しでも彼女に近づいている、そんな気がするからだ。

 彼女がゆったり話せば、僕もゆったりと話し、彼女がおどければ僕もおどける。


 いつか彼女と一緒に行動がしたい。それだけが僕の望み。

 彼女が隣にいて、笑ってくれている、きっとそのことだけで幸せだろう。


 だけど、今のままでは何も変わらないし、決着をつけなければ僕はどうにかなってしまう。

 だから、僕は意を決して彼女を呼び出した。


 とある公園の木の下に。


 僕が向かうと、彼女の姿はすでにそこにあり、体が震え、心臓が激しく鼓動し、うまく動くことができなくなってしまう。

 僕は、そんな僕の背中を押して、震える体で、うまく回らない脳で、彼女に近づく。

 なんだか体がふわふわと浮いているようなそんな気分だ。


 彼女の前に近づくと、彼女は振り向く。その奇麗な顔立ちと、きれいな瞳で。

 そして、僕は口を開く。


「あの、僕と、付き合ってください!」


 彼女は僕の言葉にきょとんとしているようだった。そして彼女の口から出た言葉は。


「あの、僕、男なんですが」


「……」


 そして僕の夏は終わった――――

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