第二十五話 大決戦!
相対する巨神たちの一撃はまさに世界を轟かせる衝撃を伴っていた。その一撃は山を削り、大地を穿ち、空間を揺るがせる。
グレート・リーンブレイバーとジャべラス。その二体の巨神に対して世界はあまりにも脆かった。
お互いに創造神の力を有する二体は、同時に世界に対する破壊の力を持っていた。それは創造神にだけ許された権利。創る事が出来るなら破壊する事も許された世界のルール。
その破壊の力が正面からぶつかり合えば、世界など塵に等しいものだった。
『グラン・グレートキャノン!』
孝也とヴィーダー。二人の声が重なり合う。グレート・リーンブレイバーとなった二人は一心同体であった。グレート・リーンブレイバーは右腕に装備された連結ライフル『グラン・グレートキャノン』をジャべラスめがけて絶え間なく発射し続ける。
「ぬぅぅぅ!?」
直撃を受けるジャべラスは苦悶の声を上げながら、八十メートルの巨体を後退させた。しかし、ジャべラスとて神である。そして、一度は創造神の座に就いた存在。直撃を受けながらも、ジャべラスは全身の獣たちを咆哮させた。
「おのれぇ、死にぞこないどもがぁ!」
獣たちの咆哮はそのまま破壊の光となり、グレート・リーンブレイバーへと殺到する。四方八方から降り注ぐ獣たちの顎から逃れる術はない。グレート・リーンブレイバーは迫りくる牙の直撃を受けた。
『ぐあぁぁぁ!』
グレート・リーンブレイバーにもダメージが入る。激痛が全身を駆け巡り、スパークが迸る。
「うっ、で、でもぉ!」
その影響はコクピットにいるクレアにも伝わっていた。だけども、彼女は歯を食いしばり、真っすぐに敵を見据えていた。その両手はしっかりと操縦桿を握りしめ、決して手放す事はなかった。
「負けない! 負けちゃ、いけないんだからぁぁぁ!」
本当は泣きたくなるぐらいに痛い。電流が全身を襲う。ネリーの加護がなければとっくに死んでしまっていたかもしれない衝撃。加護をもってしても痛みまでは和らがない。
それでもクレアは戦いを放棄しなかった。
「あなたを倒さないと、みんながもっと不幸になる! そんなの、絶対に許さない!」
『あぁ、全くだ!』
群がる獣たちの牙を払いのけるようにグレート・リーンブレイバーは左腕の二本のドリルを回転させた。獣の光は螺旋から生じる真空波に引きずり込まれ、ズタズタに引き裂かれていく。
『ジャべラス! お前の思い通りになるってのが、俺たちにはどうにも癪でなぁ!』
勢いを維持したまま、グレート・リーンブレイバーはドリルを突き立てながら突進する。
「させるか!」
ジャべラスはヤギを象った右足を使って蹴り上げる。ヤギの角がドリルのように回転し、グレート・リーンブレイバーのドリルを迎え討つ。
回転するドリルの衝突は耳障りな掘削音を放ち、無数の火花と衝撃波を引き起こす。衝撃波が弾けるたびに岩盤がめくれ、森は引き裂かれる。
両者は拮抗していた。
「ぬ、うぅぅぅ!? ネリー、邪魔をするな!」
一瞬だけ、ジャべラスのバランスが崩れる。
『それは無理な相談だ! ジャべラス、君は滅びるべきなんだ!』
それは純然たるエネルギーと化したネリーによるものだった。グレート・リーンブレイバーを包み込み、最大の加護を施す形となったネリーは同時に周囲に漂うエネルギーとして存在していた。
黄金の光となったネリーはまとわりつくようにジャべラスの妨害を行っていた。
姿はなくとも、ネリーもまた共に戦っていたのだ。
『遠慮はいらない、ぶちかませ!』
「はい!」
もうクレアには戸惑いも、躊躇いもない。
『言われなくともなぁ!』
それは孝也とヴィーダーも同じだ。
グレート・リーンブレイバーは全エネルギーをドリルに集約し、さらに回転が増す。
そして……乾いた音を立てながら、ジャべラスのドリルが粉砕され、ヤギの顔が砕け散っていく。
刹那、ジャべラスの絶叫が轟く。粉砕された右足、えぐりとられた付け根からは真っ黒な液体がとめどくなくあふれ出ていた。それはジャべラスの血でもあったが、同時にジャべラスの肉体を構成するエネルギーの集合体でもあった。ジャべラスの支配下から逃れたエネルギーたちは形を保てず、霧散していく。
『ぐっ……!』
ジャべラスに傷を負わせる事が出来たグレート・リーンブレイバーであったが、彼も無事ではなかった。ドリルは健在だが、所々にひびが入り、左腕はスパークを放ち、外装がいくらかはじけ飛んでいた。
「勇者様、大丈夫ですか!」
『平気、平気。大丈夫だよ』
その時の声音はどこか孝也を思わせた。クレアを心配させまいとする強がりの声だと、クレア自身はすぐにわかった。
「でも、なんだか真っ赤ですよ!」
クレアはコクピットモニターに表示された画像の意味をなんとなく理解していた。モニターにはグレート・リーンブレイバーを象った緑色のシルエットが写し出されており、その内の左腕が真っ赤に染まっていたのだ。
『左腕が使えなくなっただけだ。安心しろ、右腕は残っている』
その声はヴィーダーのように感じられた。あくまでも余裕と崩さず、自信を持ち続ける彼らしい答えだった。
『しかし、こいつはそうそうに決めないと俺たちも持たねぇな』
今の所、左腕が使えなくなっただけだが、そんな事が続けばじり貧も必至である。お互いの力が互角とはいえ、長々と戦闘を続けるのは不利だ。
『ならば、一気にケリをつける! グラン・キャノン、バーストモード!』
一気に決着をつけるべく、グレート・リーンブレイバーは右腕の連結ライフルをパージする。二つに分離したライフルはグレート・リーンブレイバーの両肩へと装備された。
『最大出力! グリフォン・ブレスター同調開始!』
両肩の砲身と胸部のグリフォンに膨大なエネルギーが集約される。逆三角形状のエネルギーとして形成された破壊の力はその余波だけでも周囲数十キロに地殻変動をもたらす。
一方でコクピット内部の変化はささやかなもので、クレアが座るパイロットシートの後部からはレンズ状のセンサースコープがスライドし、クレアの利き目である右目に自動的に降りてくる。
それと同時に二本の操縦桿の中央にはもう一本のグリップが出現し、トリガーが解除される。
「え、と、これを握ればいいんだね!」
それを引けば攻撃が開始される。相変わらず機械の詳しい機能はわからないが、これまでの戦いを経て、クレアは何をどうすればいいのかぐらいの判断は出来た。
突然目の前に降りてきたセンサースコープも、なぜそのような機能を持つのかはわからなくともそれで狙いが定まるのだとすぐに理解できた。
「狙いは、これでよし!」
クレアの目は獅子の顔を象ったジャべラスの胴体へと狙いを定めた。
その瞬間、クレアはためらいもなくトリガーを引く。
膨大なエネルギーを秘めた破壊の光が容赦なく発射される。
「えぇい、小癪なぁ!」
ジャべラスも迎え撃つべく獅子の口から同じく破壊の光を放つ。両者の放つ光はそのまま衝突した。またしても拮抗していた。お互いが、お互いを押しつぶそうと全エネルギーを振り絞る。
『ぐうぅぅぅ!?』
だが、その行為はグレート・リーンブレイバーにとっても負担であった。そもそも、ダメージは左腕だけではない。細かなものであっても、グレート・リーンブレイバーは全身にダメージがあった。それでも損傷の激しい左腕がまず悲鳴を上げていた。上腕部は炎を上げて吹き飛んでいく。次に、右足に損傷が走る。表面装甲に亀裂が入っただけだが、放置すればいずれ内部にも至る。
そのような傷は時間が経てば全身にまで現れていた。
「ぬおぉぉぉ!」
しかし、それはジャべラスとて同じ事だった。ジャべラスの肉体もまたわずかな崩壊の兆しを見せていた。体のあちこちからエネルギーが噴出し、ひび割れが加速していく。もはや獅子の顔は跡形もなく吹き飛び、赤い球体がさらけ出されていた。左足の蛇は既になく、両肩の象と馬の顔も半分融解を始めていた。
そして……夜の中にあって、朝の陽ざしのような眩い閃光が走る。それと同時に何もかもを包み込む衝撃が大地を崩壊させていく。
***
「まだだ、まだ我は消えぬ! 消滅してなるものか!」
激しい光の中、四肢を失い、鎧が砕け散りながらもジャべラスの本体ともいうべきアストラル体は生き残っていた。僅かに残った神のパワーをかき集め、不完全ながらも肉体を構築する。それで、かつての大地の神であった頃に肉体程度は復元できた。
「新たなる世界! 強靭なる世界! 我はそれを実現せねばならない! それこそが、我々神のあるべき姿であり、使命なのだ!」
時間はまだある。今回は無理でも、世界にはもう神は自分とネリーしかない。他の邪魔な神々は消えた。ネリーの存在は気がかりだが、この破壊の光の中では奴も無事では済まない。それは自分にも言える事だが、まぁいい。例え数百、数千年をかけようとも力を取り戻せばやり直しは効く。
その為には、この破壊から逃れなければいけない。
ジャべラスは急ぎこの領域からの離脱を図った。
だが、全身が金縛りにあったかのように身動きが取れなくなる。
『言っただろう、ジャべラス。君は滅びるべきだと』
耳元でささやくように聞こえてきたのは、ネリーの声だ。
「ネリー!? なぜ理解せぬ、我々神の本質は試練と脅威を与える事だったはずだ! そうして世界を強く、雄々しく発展させていくことのはずだ!」
『そんな古い概念は必要ない。お前も見てきただろう。私たちの加護がなくとも世界は続く。もう、世界に我々神は必要ないんだ。我々も縛られる必要はないんだ』
「馬鹿げている! 我々は世界の為に存在している。世界をよりよくするために、我らの力はあるのだ!」
『それがそもそもの勘違いなんだよジャべラス。生命がこの大地にあふれたその瞬間から、世界は彼らのものになったんだ。我々神はそれ以上に介入をするべきじゃないんだ。ただそこにあり、生命と寄り添い、そして見守る。それだけの存在なんだ。我々が意志を持ったのは、共に寄り添う生命体が欲しかったからだ。意志なき力だった我々に自我が芽生えたのも、それだけの理由なんだ。静寂と無の世界では寂しいと思ったからこそ、私たちは……』
「それでは停滞だ! 何も発展せぬ世界など、消滅させるべきだ。世界とは先に進み、そして……」
『ごちゃごちゃうるせぇ!』
刹那。光の奥底から聞こえてきたのはグレート・リーンブレイバーの声だった。
「なに!」
振り向いた瞬間、ジャべラスの肉体を剣が付き刺す。
眼前にはボロボロになったグレート・リーンブレイバーの姿があった。美しかった青い装甲は崩れ、勇ましい黒の装甲はひしゃげていた。両肩にあった砲身は根こそぎ無くなり、胸部のグリフォンの頭部は半壊していた。翼も片翼しか残っておらず、頭部を覆う兜にも亀裂が生じていた。
『小難しい屁理屈こねてんじゃねぇ! わけわかんねぇんだよ神様の理屈はよぉ!』
「ぐはっ!」
剣を突き立てられた箇所から神のパワーがあふれ出ていく。ジャべラスは食い込んでいく剣を引き抜こうと、両腕で刀身を握りしめるが、そうはさせまいとグレート・リーンブレイバーは全身を使って押し込んでくる。
「グレート・リーンブレード……!」
半壊していくグレート・リーンブレイバーからクレアの声が上がる。
同時にグレート・リーンブレイバーの全身が黄金に光輝く。
「エターナル・リーン・ブレイカー!」
『輪廻・永劫・両断!』
グレート・リーンブレイバーは突き刺さしていた剣をそのまま振り下ろし、返す刀で横一閃に両断する。
「おぉぉぉ!?」
力が流れていく。肉体を維持することが出来ない。自らの滅びを認識したジャべラスは、それでも生にしがみつくように両腕で空を掴む。
「滅びぬ、滅びてはならぬ! 他の神々は何もしなかった、だから俺がやってやろうというのだ! 神の使命を、神の本質を! それこそが俺たちの本質……」
崩壊し、光すらも認識できなくなったジャべラスの目の前にネリーの裸体が現れた。一糸まとわぬ姿、しかしそこに猥雑なイメージはなく、ただありのまま、神としてのネリーの姿がそこにあった。
そう、それはかつて世界を管理していた頃のネリーの姿。全能の力を行使し、ありとあらゆるものを作り給うた絶対神の姿。そこには聖も邪もなく、善も悪もなく、ただ純然たる神としてあり続けた美しきネリーの姿。
『君は、昔から真面目だったな』
「ネリー……」
ジャべラスは暖かさを感じた。
それが、ジャべラスが唯一知覚出来た、最後の感触だった。
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