静かにページをめくる悠太郎の表情は真剣そのもので、それがカッコよくて、邪魔したくないのも、ずっと見ていたいのもあって、花子は息を潜める。


 授業中じゃ絶対に見せない表情、きっと他の本を読んでるときも同じであろうこの表情、それをうっとりと花子は見つめていた。


 そしてまたページがめくられる。


「……これホントかよ」


 言って悠太郎が見せてくれたのは『火星人の襲来のパニック』のページだった。


「これってば、火星人が攻めて来たぞーってラジヲのドラマを本気で信じてって話だろ? 普通に考えたらそんなわけないじゃんな」


 悠太郎が同意を求めてくる。


「だって火星ってば、火の星じゃん。そんな燃えてるところに生き物いるわけないじゃんか」


 ………………ん?


 花子と悠太郎はもう高校生なはずだった。

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