ビブリオちゃんは薦めたい のやつ

負け犬アベンジャー

詐欺とペテンの大百科

 本は読むものではなく使うものだ、と何かの小説に書いてあった。


 最初読んだ時はそんなのただのセンテンス、飾りでしかないと読み流して、その小説のタイトルさえも忘れてしまったけれども、今の花子にはそれが染み入るように理解できた。


 悠太郎、彼が気になって、近づきたくって、それで奇跡のように現れた『本を薦める』ということ……花子にとってもはや本はただ読むものではなくてもっと大事な、コミュニケーション手段となっていた。


 面白い本なら沢山知ってる。読んで欲しい本も、沢山ある。


 だけど、と、色々考える。


 悠太郎は、分厚い小説も臆せず読んでくれた。


 夢中になって読んでくれるのはすごく嬉しいけれど、夢中になりすぎて、目の下にクマとか作って、授業中寝ちゃって、体とか壊しちゃうのは問題だった。


 だから今度は、キリの良いところで切り上げられる短編集にしよう、と思いたった。


 それで、本を探す。


 短編集も色々あるけど、どんなジャンルが好きなんだろうか?


 前のはホラーとサスペンスだった。ならそれに近い方が喜んでくれるだろう。


 それに古今東西色々なお話が載っていて、笑える話とか考える話とか、バリエーションがあった方が盛り上がると思う。


 深夜、枕に乗せた頭が閃いたアイディアはとても魅力的で、逆らうなんて発想は脱字していた。


 そんな寝不足のハイテンション、思い立って、あれやこれやと考え、探して、選び出した本が、放課後の花子の机の上に置いてあった。


『詐欺とペテンの大百科』カール・シファキス著 鶴田文訳 青土社


 正真正銘の辞典がそこにあった。


 ……なんでこの本選んだんだろう。


 花子は頭を抱えていた。


 深夜の本選びには魔が潜む。


 それはホラーであると同時にサスペンスでもあった。



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