翠国の影の花嫁

綺璃

序章

序章

高級な装束品に煌びやかな衣装。



華やかな舞台に、皇族に貴族、臣下達、それを守る軍隊等がずらりと並ぶ。




高い場所から見下ろすようにいるのは、麗しき美貌の皇帝陛下。



今日、この日。その皇帝陛下に初めて舞を披露する祝舞祭。



事件は、その祝舞祭から五日前に時は遡る。






———シュッ!



飛んできたのは毒針。狙うのは皇帝陛下が花嫁に選んだ姫君。




その姫君の護衛をしていた彼女は、守るように前に飛び出してその毒針を剣で弾いた。




「貴妃様を守れ!犯人を追え!」




専属の親衛隊隊長が叫び、仲間が動き出す。その場は一瞬にして騒然となる。




と、バタン、と背後にいた姫君が倒れた。



「しゅ、珠麗シュレイ!!」



思わず昔馴染みの名を叫んだ彼女は、珠麗と呼ばれた姫君の前に跪き、身体を支える。




身体が痙攣し、顔色は青白く、呼吸が乱れている。




(まさか、毒針が当たったのか!このままではダメだ!なんとしても助けなければ!)




「誰か侍医を呼んで!今すぐにっ!!」



近くにいた仲間が慌てたように駆けて行く。



騒然となる中で、倒れた珠麗がピクリと動き、薄っすらと目を開く。




「しゅ…珠華シュカ…」



彼女の名を呼び、グググ、と力を入れて身体を起こそうとする。



「ダメ!珠麗!動いちゃ毒が…っ」



珠麗の目に光が宿る。今にも倒れそうなほど蒼白い顔で強い眼差しを向ける。



「聞いて、珠華っ。貴女に…っ、これを…」



震えながら腕を上げ、彼女、珠華の前に突き出した。



珠華は泣きそうになりながら、その手を両手で包み込む。



「お、お願い。貴女が…代わりに…ごほっ!ごほっ!」




懇願する珠麗は吐血し、身体を大きく痙攣させた。




珠華は顔色を変えると、



「わかった!わかったから喋らないで!」



叫びながらギュッと力強く珠麗の手を握りしめて、安心させようと無理矢理だが笑顔を見せると珠麗が安堵したようにふっと笑った。




そしてそのまま瞼がゆっくりと下りて、ずしりと支えていた身体から力が抜ける。




「しゅ、れい…?」



珠華が、震える声で呼びかけた。



「…………………」




しかし、彼女は答えない。




「珠麗…!?」



途端、取り乱した珠華は珠麗の身体を揺さぶり、何度も呼びかけた。



だけど彼女は小さな笑みを浮かべたままぐったりと動かなかった。




「うっ、ああ…!ああああああっ!珠麗ぇええええーーーっ!!」




安心したように微笑み眠る姿を最期、虹珠麗コウシュレイは珠華の腕の中で息を引き取った。




———これが全ての始まり。




ここから、珠華の物語が始まる。

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