1月10日

 私は私から『B』と呼ばれている。

 だから、代わりに私は私のことを『A』と呼んでいる訳だ。

 いや、どういう訳だと思われるだろうが、これは実はすごくシンプルで、安易で、安直な理由付けに依るものだ。

 当然のことだが、私の本名は一つしかない。

 だから私と私の呼び方には何かしらの区別をつける必要がある。

 そして私の血液型はAB型。

 私は神経質とまでは言わないけれど細かいところがある。

 だから『A』

 私は横暴とまでは言えないけれど我が儘なところがある。

 だから『B』

 いやいや、どちらも私であることは変わらないんだから、どちらも『AB』じゃないかと思うだろうけれど、これは私が決めた、私たちが決めたルールの一つなのだ。

 私と私だけが知っているルールなのだから、誰にはばかることなく貫いているルールなのである。

 これ以上の言及は許さない。ぴしゃり。


 ちなみにその昔Aはこの呼び方のことを『私は慎重だからAで、私は行動派だからBだよぉ!(*>ω<*)』と顔文字付きでメモに書き残してきたが、私が返事に『表現の違い。言い方の問題じゃんソレ』と残すと『文字だけの文章恐いよ((( ;゚Д゚)))』と本題から逸れた返答を書いてきた。

 結局、『分かった。それでおk( ´∀`)』と私が折れた。

 こういう時のAの押しの強さは私にはないものだと思う。

 こんな当然のこと言うのもなんだけど、同じ身体を共有していても、やはり別の人格。

 Aが過ごした一日の事を、私はあまり思い出せないし、Aが何かに感動したり悲しんだりしても、私は共感出来なかったりする。

 別の人格が違う毎日を送っているのだから、仕方のないことだ。

 Aは、私のことを『双子の片方』と表現することがあるが、私は普通の二重人格者だと思っている。

 普通の二重人格者というのは、世間一般が持っている多重人格者のそれだ。

 それでもAが自身の考えを疑わず私をそんな風に表すのは、単純にAの性格が良いからだ。Aがい人だからだ。

 Aは私が持っていないものをたくさん持っているし、私には無い、良い所がたくさんある。

 Aには絶対に伝えないし、墓場まで持って行くつもりでいるけれど、私がこんな根暗で後向きな性格なのは、Aに起因していると思う。

 Aの所為だとは、絶対に、口が裂けても出さないけれど、Aが太陽なら私は月。Aが光なら、私はその光に当てられて出来た影。

『A』の次だから、『B』

『A』が居たから現れた、『B』

 私は、B2番目なのだ。


 私たちの人格は、23:00~03:00の間に切り替わる。

 タイミングこそ自分では決めれないが、切り替わる時間帯さえ分かっていれば切り替わる時に居る場所、Aに残せる情報などはある程度調整ができる。

 私がやり損ねたことをAにやらせるのは心苦しい。

 Aが出来なかったことを私がこなすのは、宿借りをしている者として当然のこと。

 そう思って、私はAに文句をつけたことは一度もない。

 正直、嫌われるのが怖い。

 Aは「私たちは平凡な人生を順風満帆に送っているよねぇ~。幸せなことだよねぇ~」と言う。

 Bは『Aが困ったりしないよう、受験前には徹夜を続けた』『クラスメイトの話題に付いていけるようコンビニで立ち読みを繰り返した』『彫金の専門学校に行きたかったけれど、「もう勉強したくなーいー」と言うAの為に就職活動に励んだ』『好きな人が出来た時も、Aに恋人がいたから、好きでもない相手とのアレコレを我慢した』

 なんて。

 今思い出しても下らない努力を続けて、Aの影に居させてもらっている。

 そんな、端から見たら『つまらない人生』を私は続けているのだった。

 Bぼくは、これからもそんなつまらない努力を続けていくのだ。

 あなたに愛され続けていく為に。


 あなたの側に、ずっと居たいから。


 平々凡々な二重人格生活なんかではないけれど、案外悪くないと思える偽りの自分は、愛しい人と片時も離れないという幸福に満ちている。

だから。僕は、これまでも、これからも幸せ者なのだ。

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