1月2日

 正月の朝は早い。

 7時に起きた。別に早くもなんともないが、眠い。

 眠いものは眠いのだ。

 低血圧とかいうやつなのかもしれないが、自分の血圧を把握していないので実際のところは分からない。

 あまり猶予のない支度時間を、遅刻しない程度のスピードでのそのそと動く。

 靴に足を滑り込ませ、玄関の扉を押すと一気に寒気が流れ込んでくる。

「はっ……はぁぁぁ……っすぅ……はぁぁ。寒い」

 ゆっくりと吐き出した息が白く濁り視界を曇らせる。

 何で冬なんて季節があるのだろう。春夏秋の三つで良いじゃないか。

 しかしそれでは実質『夏』と『春と秋が混ざった何か』の二つになってしまうのでは、と思ったところで現実に返った。

 仕事に行かねばならないのだ。


 職場に着くと、二日めから出勤の同僚に「新年おめでとうごじゃます今年もうにゃにゃにゃー」と語尾に進むに連れて崩れていく形すらあやふやな新年の挨拶を済ませ、仕事モードに切り換える。

 こんなんだが、同僚の中では少し多めにお給料をいただく立場である。

 上司には、「もう10年選手なんだから、もっと新しいことを考えよう」なんてお小言めいたアドバイスも頂くが、新しいこととは一体何だろうか。漠然と普段と違うことをしたところでそれは成果や結果には結び付かないし、得たい結果を先に立てるとこれまでの手法が先ず頭に網羅される。

 簡単に『新しいこと』と言っても、考えに考え抜いた先に見付かる、云わば『霧の向こうに在るもの』を生み出さなくてはいけないということなのだろう。

 何だそれは。悟りでも開けと言うのだろうか。

 会社とは、上司とは往々にして無理難題を期待(またはプレッシャーとも言う)を押し付けてくるものだ。

 それが仕事なのだからさもありなん。

 今日も『上司の期待を下回らない仕事』を、頭をひねりながら懸命にこなしていく。

 ふーむ。世知辛いのじゃ。


 定時を僅かに(僅かとは言ってない)過ぎた頃、引き継ぎを済ませ職場を出る。

 1日2日と新年の貴重な(365分の2程度の)時間を職場で過ごし、上司や同僚に四の五の言われながら期待とストレスを越えた私には、3日4日と我が職場らしい正月休みが与えられている。

 さて、どうやって過ごすか。

 時間をかけて実家に顔を出して、残り物の正月色のある馳走に舌鼓を打つか、はたまた広くないワンルームで趣味趣向にふけるのか。

 それが問題だ。


 帰りがけに、一応二日分の食事は買い足している。

『何もしなくても』二日過ごせるだけの用意はとうに出来ている。

 ううむ。不味い。これは、何もしない、何も起こらない、何事にも費やすことなく、無為に連休を浪費するルートに入っている。間違いない。

 いや、それでも別に構いはしないのだけれど、果たしてそれで良いのか私。

 ほんとうに、それで『良い』のか私は。

 こんな私は。

 折角のお正月の三が日なのだから、何か正月らしい、初詣だの何だのを大衆に混ざり、群衆に交ざり、朱に交わり赤くなってみるべきなのではないのか。


「いやぁー、やっぱいいわ。そーゆーの」


 斯くして、私の貴重な二連休は、『浪費』という名のこの世知辛い世で最も贅沢な使い方に決定したのである。

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