365日日替りアカウント
@taikaino-kawazu
一章 前略
1月1日
「お、上がってるじゃん」
デイリールーティンの海外サイト巡回をしながら人さし指を二回動かす。
グレーなのか、限りなくブラックなのか、はたまた真っ黒なのか、海外サイトにアップロードされているTV版アニメをダウンロードしながら、待ち時間にシャワーを浴びる。
幾つか同時に落とすので、少し時間がかかるに違いない。
年明けくらいお風呂入るか、そう思い立ちバスタブに湯を張る。
少し熱いくらいが好きだ。
思わず「くぅっ」と声が漏れるくらいが一番『お風呂に浸かっている』と感じる。
肩まで伸びた、すこしごわごわした髪を洗い流し身体を洗う。
身体は左腕から洗う派。左腕→首周り→右腕だ。
ついでにお風呂で歯も磨いちゃう。
TVで見たのだけれど、お風呂では血流が良くなるので、お風呂で歯を磨くと歯茎のマッサージ効果が増すらしい。
嘘か真かは甚だ不明だが、説得力はあるのでそれ以来お風呂には歯ブラシを持ち込むのが癖になっている。
念入りに歯と歯茎の間をブラッシングする。
温水で口をすすいで、しっかり磨けているかチェックするために舌で歯の表面を丹念になぞる。
うん。つるつるしてる。大丈夫そうだ。
髪を洗い、身体をこすり、歯を磨き終えると、なんだか脱皮でもしたんじゃないかと不思議な気分になる。
全身くまなくお湯ですすいだのだから、きっとそう表現しても間違いではないハズだ。よくわからないけれど。
さて、満を持して湯に浸かる時がきた。
お湯には右足から入る派。
「……ぉ……ほぉ……ぉおぉ……おおお……んん……ん、……はあっ……はぁ……はぁ…………ふぅ……」
熱い。
でもそれが良い。
最高だ。お風呂は最高だ。
『お風呂は命の洗濯』という名言を残したのは誰だったか。確か温泉ペンギンの飼い主だったと思う。
バスタブの底に腰を下ろし、小さめの船の中で出来るだけ身体を伸ばす。
熱めの湯に身体が馴染んでくると、血流が良くなったせいか顔まで熱くなってくる。
次第に額からは汗が滲んで、頬を伝い滴が落ちる。
ふぅふぅと息が荒くなってくるが、もう少し我慢すると湯が丁度よく冷めて長湯ができるくらいになる。
これくらいになると、だんだん、だんだん眠気が差してくる。
そう、眠気が……。
「……はっ?! 寝てた。また寝てた」
湯に浸かると、だいたいこうなる。
こういう時、時間が見れるようにあらかじめ持ち込んでいるスマホを見ると。
「はい、四時間経ってます。寝すぎた」
となる。
が、しかし。
これ、実は寝ていない。
詳しい説明は端折るが、結論から言うとこの『湯槽で寝る』というものは、正確には『失神』なのだ。
人は湯に長時間浸かると脳に十分な血液を送れなくなる。すると立ちくらみに近い状態になり、そして失神する。
そして湯が冷めて、脳に血液が十分に流れるようになると、目が覚めるのである。
なんと恐ろしい現象だろう。
と、分かっていても長湯してしまうのだから世話がない。
しかも、湯が冷めて目覚めるのだから、身体も湯冷めして寒い。
となるとまた温まるために足し湯する。するとまた眠気が……。
恐ろしい。無限ループである。
しかし止められない。これも恐ろしい。
力を振り絞り、湯槽から脱出を果たし浴室から出る頃にはとうに五時間を越えている。
長湯し過ぎである。
せっかく落としたアニメも、見る時間は無い。
早く暖かな毛布で寝ないと、実は元旦から仕事なのである。
お風呂、やはり恐ろしい。
お風呂は正義であり、悪魔でもあるのだ……。
という独自論を妄想しながら1月1日の夜は更けていったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます