A君


君は優しい

「俺怒ってるから」

眠る私にカーディガンをそっと掛けてくれる

「ほんとムカつく」

自転車を押して家まで送ってくれる

「お前のこと嫌いだから」

朝まで電話を繋いで話を聞いてくれた

「なんで俺が怒ってるかわかってる?」

私がいつも知らないふりしてるけど

ほんとはわかってることも

そしてそれを変えないつもりでいることも

君は知っている


「お前が心配なんだよ、頼れよ」

そんな君に私は甘えてる

荷物も持ってもらうし色んなことに付き合ってもらってる

むしろ振り回してるかもしれない

けれどあなたに頼み事をするのに一緒にいてもらうのに罪悪感はない


けれど知ってる

一番あなたが頼ってほしい場面で私が頼らないことを

だから君は怒ってる


君の優しさが私には痛くて

冷たい世界が温度を持とうとする

熱いものがこみ上げてる


ぼやけた視界の中で

ぐちゃぐちゃの心の中で

携帯に表示された君の名前

それを見つめて

発信ボタンを押すか迷っては

電源を落とす

そんなことを繰り返して


いつまで経っても

助けのコールは鳴らない



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