マジカル☆ロワイアル

たぷたぷゴマダレ

0日目

プロローグ【あなたは魔法少女の一人に選ばれました】

あたりに赤い液体が飛び散っている。元になった数がわからないほどの肉の山の上に、少女が体操座りで座り込んでいた。尻に気持ち悪い感触が広がって行くが、そんなことはどうでもよかった。


すると突然、目の前がパッと光る。少女は目を薄めながら、その光を見つめる。そこには、小さな輪っかができていて、突然声が聞こえる。


「おめでとうございます。あなたが今大会の優勝者です。さぁ、願いをどうぞ」

「ーーー」

「ほほう。それはそれはなかなかどうして素晴らしい願いだ……えぇ、お望み通り叶えましょう」

「ーーー。ーーーーー」

「……ほう」


光の輪は少女の言葉に頷いた。姿は見えないが、なぜかニヤリと笑ったような気がして、また声が聞こえてきた。


「よろしい!我々は貴方の考え方に同意します……では、規則ですのであとでメールを一通送らせてもらいます……これは退屈しないように、ルールを少し変えますか」

「ーーー?」

「いや、なに。我々の話ですよ。では、また然るべき日まで……good-bye」


そんな声が聞こえたあと光の輪は消える。少女は肉の山の上から降りて、ぺこりと頭を下げる。そして手に握っていたスマホを操作して何かのアプリをタップする。


すると、その場から少女の姿は消えていた。ガチャリと音を立てて崩れ始める肉の山だけが、そこに残されていたのだった。



◇◇◇◇◇



ピンポーン


チャイムの音がなる。その音が、少女の目覚まし音だ。朝早い時間に帰ってくる母は、そのまま軽く自分の部屋に来たあと、一言声をかけてくる。


この声で少女。佐藤美海さとうみみは、完全に目をさます。大きく伸びをしたあと、眠気まなこを擦りつつ、洗面台に急ぐ。


冷たい水で顔を洗うのは気持ちがいい。なんせ今は、夏休みなのだから。可能なら、全身に冷水を浴びたいが、それは今はしなくてもいい。


そして、美海は朝食を作りにキッチンへ。朝は彼女がつくって、母と食べてる。父は海外に出張してるため、基本はこの二人で生活をしていた。


苦労はある。けれど、楽しさの方がその苦労を打ち消していた。こんな毎日があってもいいだろう。


「……ん?」


朝食ができたため、母を呼びに行こうとした時、スマホにメールが一通届いてるのに気づく。件名には【大切なお知らせ】としか書いてなくて、何かワンクリック詐欺でもハマってしまったか。そう思いながら一応そのメールを読み始める。


「えっと……【おめでとうございます!貴方は魔法少女の一人に選ばれました!!願いを叶えるために殺し合いに参加しましょう!】……なにこれ、迷惑メール……?」


美海はそう言ってそのメールを消そうとする。けれどなぜか消えない。仕方なく美海はスマホを机の上に置いて母を呼びに行ったのだった。



◇◇◇◇◇



「今回はどうだ?」

「あぁ、首尾は上々だ……このままいけば、歴代最高、そして最大のショーが開くぞ」

「それはいいことを聞いた……さて、今回はどれくらい盛り上がるかな」

「盛り上がらなくても、無理やり盛り上がらせるのが我らの仕事だ……さて、参加者をあと数人あつめるぞ」

「了解」



◇◇◇◇◇



美海は道を歩いていた。隣にはもう一人の影があった。美海は、隣にいる少年を方を見ると、顔を真っ赤に染めて行く。


少年が自然に気づき、優しくは微笑む。それを見たら、さらに少女は照れ臭くなっていき、どこかに隠れたくなってしまう。


けど、そういうわけにはいかない。だって、今この瞬間から目を離すなんてこと、勿体無さすぎる。


美海にとって、少年はかけがえのないものだった。もし、彼がいない世界を想像しろと言われてもそんなことができるわけがない。


今日はそんな人と歩くことができる。朝変なメールが来たこと以外は、とてつもなく素晴らしい日だ。名付けれるなら、国民の祝日にしたい。


まぁ、そこまで権限があるわけがないのだが。


「ねぇ、美海。あそこの公園に行こうよ。景色が綺麗だよ」

「う、うんっ!」


少年に誘われるままに、美海は公園に足を運ぶ。暑い日差しが照りつけるが、彼とともならそれすらも気にならない。


その公園は、海を見下ろすことができる。日差しを反射する水面は、まるでキラキラと輝く宝石のようだ。美海はそれを見てうっとりとしていた。


彼もそれをじっと見つめている。大切な人と、見てる景色を共有できるというのは、なんて素晴らしいのだろう。今感じているのは、まさに幸福だ。


しばらくそこで過ごした。他愛もない会話。なんでもない仕草。それが全て尊いものであった。こんな幸福な時間を、毎日過ごされるなんて、とても申し訳ない気持ちになる。


幸せな日々が、こう毎日続けばいい。私はそれ以上望まない……美海はそう考えていた。だからもう頭の中から、朝来たメールのことは消えていた。



◇◇◇◇◇



その日、信号は赤色に光っていた。


わかっていた。渡ってはいけないと。けれど、あたりに車がないからいいかなとか、そんな甘いことを考えていた。


真ん中まで歩き、大丈夫だよと後ろの少女に声をかけようとした。それと同時に体に激痛が走る。


あれ、飛んでるな僕。


そう考えると同時に、意識が飛んで行く。少女の悲痛な声が聞こえて来た。そんな声聞きたくないのに、その言葉を最後に、少年の意識は完全に飛んでしまった。



◇◇◇◇◇



美海は公園のベンチに座り込んでいた。風が強いのか、海は荒れていた。きらきら光る宝石のような水面はぐちゃぐちゃに壊されていた。


美海の頬には、目の下から一本の道が出来上がっている。もうそこを通るものなんて、なにもいない。


少年は事故にあった。


幸い命は助かった。けど、それだけだった。命は助かったが、意識は助からなかった。少年は、眼を覚ますことはほぼありえないと医者に言われていた。


眼を覚ますのなんて簡単なのに、そんなことができなくなるだけで、少年はとても弱々しく見えてしまう。


少女は、じっと荒れている海を見ていた。そんな時だった。少女のスマホがけたたましく鳴り響く。


なんだろうと思い、メールを見る。それはいつだったろうか。あの日きたあのメールだった。


願いを叶えるとかいてある。美海は馬鹿馬鹿しいと考えた。けど、もしかしたら。もしかしたら本当に願いが叶うのかもしれない。もう美海は藁にすがるしかないのだ。


メールをよく読む。ルールも書いてあるところがあるが、そこらへんは無視を決め込む。どうやら、添付されているアプリをタップすれば参加できるらしい。


馬鹿馬鹿しい。けど、騙されるなら最後まで騙されてみよう。美海はアプリをタップしながらそう考えた。


【参加を認めます。今から送られるアプリを本日の20時に開いてください】


やはり騙されていたのか。いや、最後まで騙されるのさっき決めたではないか。美海はそう呟き、トボトボとした足取りで公園から出て行った。


いつの間にか、海は穏やかになっていた。



◇◇◇◇◇



夜の20時まであと5分。美海は時計を見ながらため息を一つこぼす。まるで道化になってるみたいだけど、もう仕方ない。


美海はまたため息をつく。本当に馬鹿みたいだ。けれど、もしこれで少年が助かるなら、どこまでもバカになろう。


そう考えた少女は少し早いけどと呟いて20時の1分前にアプリをタップしたのだった。


それと同時にアプリが強く光を放つ。当然のことに焦った美海は両目を強くつぶり、その光から逃れようとした。


そして。光が消えたあと。


美海とスマホの姿が消えていたのだった。

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