花の妖精

からあげ餅

第1話 初めまして

 僕が、行きたかった大学に合格して、入学式を向かえた日。

 最寄り駅のホームで電車を待っていたら、一人のおじさんにからまれている女性がいた。

「だからさあ、ボクと一緒に行こうよお。」

「いえ、あの、急いでるんで。」

「……あの。」

 気づけば僕は、その女性に話しかけていた。

 そうだ、この女性を、早く助けなくちゃ。

 そんな思いが、ふつふつと込み上げてきた。

「ま、待ってたんだぞ。ほ、ほら、早く行かねえと間に合わねえぞ。」

 僕は女性の友人を演じて、その女性の手を掴んで走った。

 おじさんが見えなくなるまで走って、足を止めた時。

「あの、ありがとうございます。私、これから大学の入学式で……。」

「そうなんですか?僕もです。もしかして、同じ大学だったりして……。」

 本当に、同じ大学だった。

 気が付けば隣にいて、一緒に授業を受けて、遊んで、電話で話をして。


 いつしか君は。


 僕の好きな人となっていた。


 出会ってから一年がたった日。彼女は自分が重い病気にかかっていることを僕に話してくれた。

 それでもずっと、一緒にいるって、誓った日でもあった。

 それから半年後の朝。看護師さんに呼ばれて病院に駆けつけたら。


 彼女はもう、この世にいなかった。


 その後はもう、泣くしかなかった。

 気持ちが落ち着いてきても、毎日ぼうっとして過ごした。

 そんな僕を見ていたのか、母は僕の部屋にコチョウランを置いた。

「知ってる?勇気。コチョウランってね、幸福をもたらすっていう花言葉なのよ。少しは勇気が元気になるかなあって思って。」

 母は少し笑いながら言うと、部屋を出た。

「……そういえば、会ってから二年になるな。」

 彼女が生きていれば、と思うと、胸がちくちくと痛んだ。

「……誰と会ってから?」

 部屋の中で、少女の声が聞こえた。

「初めまして、勇気くん。」

 コチョウランの隣に、花と同じピンク色のワンピースを着た少女が立っていた。

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