第43話 食事
「おお、よう来たな、リツ」
ときどき夢で‘りつ’と呼ばれる。
そのときは決まって、もののけに囲まれている。たぶん好きな漫画のせいだろう。(『百鬼夜行抄』)その漫画もりつ君がもののけ達と関わる話だ。
さて今回の自分(リツ。外観は漫画とは別人)はある家に招かれてきたらしい。
ふるくて暗い、二間続きの和室。奥の和室の中央に、小柄なおじいさんが居た。気配が面(顔)しかなさそうな、気色悪い感じがした。
逃げ出したいけど、逃げたら捕まるのはわかっている。うまくごまかして去るのがいい。おじいさんはふわふわと動きながら一角を顎でさす。
「よう来た。座れ」
「うん。おじいちゃん、元気だった?」
「おう。あいかわらずじゃ。さ、座れ。食え」
見ると、足元の卓上にひとりぶんの食事が置いてあった。
粥、汁物、おかずは3品。冷えていることもあって、どれもおいしそうには見えない。そもそも絶対に食べたくない。
しかしおじいさんはしきりに勧めてくる。
「食え。食っていけ。リツ」
「ええと、おなかいっぱいで…」
「いいから食え。座れ、食え」
強気に負けて、おとなしく座った。どうしようか。
おじいちゃんが和室の中でふわふわと動いていた。
いや、背丈はそのままだけど、明らかに子供になっている。
ほら、しわがない。髪もふさふさだ。
やはり‘そういうもの’の家らしい。
勧められる食事も、よく見ると食べ物にはほどとおい。小鉢に盛られたどろりとしたものはなにかの目玉だ。汁碗の具はハ虫類の卵っぽいし、煮付けは獣らしい耳のかけらが見てとれた。
なおさら食事には手をつけたくない。口にしただけで染まりそうだ。
「うまそうだ」「しっ」
ささやく声に顔を上げると、3匹の怪が卓についていた。皆、一様に食事をうらやましそうに見ている。どうやら食べたいらしい。
「これ、あげるよ」
「いや、おまえのものだからダメだ」
「ダイエット中で食べられないんだ」
「食べられないのか!?」
「うん。だから皆にわけてあげる。かわりに食べてよ」
「しょうがないなあ」「しょうがないな」「じゃあしょうがない」
よし、いいぞいいぞ。
しかし、そうはうまく事が運ばない。
「でもひとり1つだぞ」
1匹がそう言うと、残りも呼応した。
「そうだ。そうでないとダメだ」「あまった分はおまえが食え」
拒む事ができないまま、とりあえず配ることにした。
3匹それぞれ、汁とおかず2品を配った。
残りは粥とおかず1品。どうしよう。
ああ、そうだ。思いついた。
「いけない。これは、それと一緒に食べないといけないんだ。配る直すね」
怪たちが動揺した。
「なぜだ。これではひとり2つになってしまう」
「これは目玉。こっちは耳。目と耳はそろっていないといけないだろ」
「そうか、それならばしかたない」
納得してくれてよかった。
さあ、残りはお粥だ。
おじいちゃんが目をぎらつかせてきた。
「食えええ。はよう食ええええ」
そうだ。年寄りにはお粥だな。
「おじいちゃん。お粥はおじいちゃんのほうがいいよ」
「それはおまえのだ」
「だってこのお粥、’100のお粥’でしょ。食べたら100才年を取るか若返るものだよ。僕が食べたら、下手したら消えちゃうよ。それは困る」
「じゃあ、しかたないな」
当てずっぽうに言ったけど、おじいちゃんは納得してお粥を受け取った。
よし。
怪たちがうまいうまいと食べ始めた。
食事に気を取られているうちに笑顔で「残念だけど、これで帰るね」と縁側からその家を逃げ出した。
ここで目が覚めた。ひどく汗をかいていた。
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