第39話 屋敷
出先で。暇だと話したら、じゃああそこに行くといいよと地元の人に勧められた。そこは暇な人大歓迎らしい。
集落の地主宅でいつも来訪者を歓迎してくれるという。めずらしい食べ物をふるまわれるのはもちろん、お人柄もかなりおもしろいらしいので、行ってみることにした。
一見、普通の平屋一戸建て。無機質な外観は公民館に似ていた。しかし玄関を開けると別世界だった。金銀で磨かれたひろい広間ときらびやかな装飾品、見上げるとおおきなシャンデリア。ベルサイユ宮殿のようだ。
ようこそ、と年老いた執事が頭を下げる。あちらへどうぞと示された右手の奥から、奥様の集団のにぎやかな喋り声が聞こえてきた。普段着のおばちゃんたち7、8人がベルサイユな一室でお茶を飲んでいる。
(そのおかしい風景はまるで家具の展示場でお茶してるみたいだ)
会話も普通で、スーパーの安売りとか家庭の愚痴とかおばちゃんの話で盛り上がり、合間にぎゃっはっはと下品な笑い声が混ざる。
執事によると、中央でうれしそうに静かに笑っているご夫人が主らしい。ああ、確かに一番地味だけどきちんとした服装で、笑うときも口元を隠している。見るからに「マダム」という感じだ。そして、ほんとうにしあわせそう、楽しそうだ。
この豪華絢爛な屋敷は隅々までご夫人好みで作られ、ああして土地の人たちとお茶したりお喋りするのが夫人の一番しあわせな時間だという。それを見守る使用人たちも夫人の笑顔が一番しあわせだと話した。
お客は屋敷内を自由に使っていいそうで、お言葉に甘えて試しに探検することにした。
とにかく広い。
外観からは想像もつかない。平屋建てだと思っていたのに、階上が存在するのだから。
一階はお茶や食事の場。
りっぱな階段を上った先、二階は衣装室だけだった。たくさんの部屋を使って世界各国のブランドから民族衣装までが、フルサイズで揃っている。
三階はホールらしい。ダンスでもできるのかという広間。
四階は書物の階らしく、これまた部屋ごとに書物が分類されていた。好きな本があったので、パラパラとめくる。
本当に、なんでもあるな。
階下から笑い声が聞こえてきた。夫人のしあわせそうな笑顔とおばちゃんたちの楽しそうな笑い声を思い出した。
一転して、二階から上を夫人が使用している気配は感じない。
ここまで財を投じて物を得ても人は人を求めるものなんだろうな。
ここで目が覚めた。
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