鄭玄1  鄭玄と馬融   

鄭玄ていげん

 既出:支遁3



漢末の大学者、鄭玄。

かれははじめやはり大学者の

馬融ばゆうという人の門下にあったが、

三年たっても師に会えずにいた。

その教えは、高弟づてでのものだった。


そんな馬融一門のもとに、

一つの問題が持ち上がる。

渾天儀こんてんぎ、天文の動向について

計算をする器具を用いても、

うまく辻褄が合わない。


馬融も高弟たちもわからない。

その中で、一人が鄭玄を推薦。

なので馬融はさっそく鄭玄に

計算をさせてみせた。


渾天儀をくるり、と回す鄭玄。

そして、問題をたちまち解決してしまう。


ファッ!?


ビビるみんな。


お役目は終了しましたね、

じゃあ私はこれで。

撤収する鄭玄の背中を見ながら、

馬融は思う。あいつはヤバい。


「このままではやつのもとに、

 名声が集まってしまう!」


鄭玄自身も、問題が解決した時の

馬融の表情から、事態を悟ったのだろう。

もしかしたら、殺されるかもしれん。


とある橋にまで差し掛かると、鄭玄、

橋の下に潜りこみ、

川のたもとで下駄に寄りかかった。


追う、馬融。

占い板で、鄭玄の動向を追う。

すると、結果が出た。


「鄭玄は土の下、水の上にあり、

 木に掛かっている。きっと、

 ドザエモンになっているのだ」


そうして追手を引き上げさせた。


なので鄭玄も殺されずに済むのだった。



鄭玄在馬融門下,三年不得相見,高足弟子傳授而已。嘗算渾天不合,諸弟子莫能解。或言玄能者,融召令算,一轉便決,眾咸駭服。及玄業成辭歸,既而融有「禮樂皆東」之歎。恐玄擅名而心忌焉。玄亦疑有追,乃坐橋下,在水上據屐。融果轉式逐之,告左右曰:「玄在土下水上而據木,此必死矣。」遂罷追,玄竟以得免。


鄭玄は馬融が門下に在れど、三年相見ゆるを得ず、高足の弟子より傳授さるのみ。嘗て渾天を算ぜるに合わず、諸弟子に解す能う莫し。或るもの玄の能なるを言わば、融は召じ令し算ぜしむ。一轉にして便ち決さば、眾は咸な駭服す。玄の業の成り辭歸せるに及び、既にして融に「禮樂皆東」の歎有り。玄の擅名を恐れ忌まわしきを心す。玄は亦た追わる有らんと疑い、乃ち橋下に坐し、水上に在し屐に據る。融は果して式を轉じ之を逐わば、左右に告げて曰く:「玄は土下水上に在りて木に據る、此れ必ずや死せん」と。遂には追を罷め、玄は竟に以て免るるを得る。


(文學1)




鄭玄

後漢末の大学者。様々な過去の経典に注釈をつけまくっていてビビる。なお馬融のもとで「七年」学んだそーである。世説新語さんはちょくちょくこう言う雑なことを言い出すので史実として見ちゃいけません。注釈を入れた劉孝標も「馬融みてえな大学者が鄭玄ほどのやつを殺すなんてみみっちい真似するわけねえだろ」ってキレてる。


馬融海內大儒,被服仁義。鄭玄名列門人,親傳其業,何猜忌而行鴆毒乎?委巷之言,賊夫人之子。


このひと時々注でマジ切れしてるから面白い。

ていうかさらりと魔法みたいな占い決める馬融さんも面白すぎる。「鏡よ鏡、鏡さん、世界で一番素晴らしい学者はだあーれ?」じゃねんじゃ。

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