呉郡顧氏

顧和   ふたりの孫   

呉郡顧氏 顧和

 既出:元帝2、王導4、王導19

    王導20、王導22


 

王導おうどう庾亮ゆりょうだといった傑物たちが

次々と死んでいく中で、

王導さまの属官として立身した人、

顧和こわは、ついには三公にまで至る。


ただ、彼の子どもたちは

うだつが上がらなかったようで、

みずからの家門の繁栄については、

ひとかたならぬ危機感を

覚えていたようである。


ある日の顧和、ときのインテリたちと

清談をかわしていた。

このとき顧和のそばには二人の孫、

張玄之ちょうげんし顧敷こふがいた。ともに七歳。


ふたりは話を

聞いているようではあったのだが、

特段興味を示していたようには

思えなかった。


のだが、夕暮れすぎ。

ろうそくの下で二人が語ったのは、

まさしく顧和と客人たちが

語った内容であった。


おぉ、うぉお……!

司空どの、わたわたと二人の元にゆき、

その耳たぶをたぷたぷさせながら、言う。


「まさかまさか、衰運の中に

 あったはずの我が家門に、

 このような令才が現れようとは!」



司空どの、彼らを溺愛していた。

ただ、それでもやはり、差異はある。

ぶっちゃけ同じくらいの才なら、

おなじ姓であることが重要。

マジ重要。


なので司空どの、どちららかといえば

顧敷をより可愛がっていた。


時に張玄之九歲、顧敷七歲。

んん? 前条と話が違いますね?


ともあれ、ふたりがじぃじと共に

寺に参拝した。


そこには荘厳な仏像があった。

般泥洹像はつないおんぞう。ようは釈迦しゃか死亡の瞬間を

描き出そうとした像だ。


それを見ながら、ある僧侶は泣き、

ある僧侶は泣かずにいた。


ほほう、これはこれは。

司空どの、孫の器量を測るチャンスと、

二人に問う。


なぜ仏僧は、

泣いたり泣かなかったりするのだろう?


先んじて、張玄之が答える。


「釈迦よりの寵愛を得られた者が泣き、

 得られなかった者が

 泣かなかったのでしょう」


言い換えれば、仮に顧和が死んだときに、

俺が嘆くことはないでしょうよ、

だってあんたは俺を

蔑ろとしましたもの、

と主張したわけである。


そうすると、顧敷は反論する。

いやいや待てよ玄之どん、

被害妄想甚だしいんじゃね、

ってなもんである。


「いえ、悟りを開き、感情から

 解き放たれたものが泣かず、

 感情に囚われたままで

 おる者が泣いた。


 そのような由来でしょう」



司空顧和與時賢共清言,張玄之、顧敷是中外孫,年並七歲,在床邊戲。于時聞語,神情如不相屬。瞑於燈下,二兒共敘客主之言,都無遺失。顧公越席而提其耳曰:「不意衰宗復生此寶。」

司空の顧和は時賢と共に清言す。張玄之、顧敷は是の中外孫にして、年は並べて七歲なれば、床邊に在りて戲る。時に語を聞き、神情は相い屬さざるが如し。瞑、燈下にて、二兒は共に客主の言を敘さば、都べて遺失無し。顧公は席を越え其の耳を提じて曰く:「意わざりき、衰えたる宗に復た此の寶の生まれたるを」と。

(夙惠4)


張玄之、顧敷,是顧和中外孫,皆少而聰惠。和並知之,而常謂顧勝,親重偏至,張頗不懨。于時張年九歲,顧年七歲,和與俱至寺中。見佛般泥洹像,弟子有泣者,有不泣者,和以問二孫。玄謂「被親故泣,不被親故不泣」。敷曰:「不然,當由忘情故不泣,不能忘情故泣。」

張玄之、顧敷は是れ顧和の中外孫にして、皆な少きより聰惠なり。和は並べて之を知り、常に顧の勝れたるを謂わば、親しきの重偏なるに至り、張は頗る懨からず。時に張の年九歲にして、顧は年七歲なれば、和と俱に寺中に至る。佛の般泥洹像を見、弟子に泣ける者有り、泣かざる者有らば、和は以て二孫に問う。玄は謂えらく「親しきを被るが故に泣き、親しきを被らざるが故に泣かず」と。敷は曰く:「然らず、當に情を忘れたるが故にて泣かず、情を忘れたる能わざる故にて泣きたるに由るべし」と。

(言語51)




呉郡顧氏は呉の時代に宰相レベルを輩出したけれど、顧和の時期ともなればそこまでの地位の人間はいなくなる。その中で顧敷の存在は期待だったんでしょうね。というか張玄之は、いくら孫とは言え「顧氏を盛り立てる者」ではないし、どうしても扱いが軽くならざるを得ないでしょうなあ。血縁も大切だが、宗門の維持隆盛はもっと大切。張玄之さん、悲しいところです。つーか同じ条で張玄と張玄之で表記ゆれしてんじゃねえ。

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