支遁5  議論のための議論

許詢きょじゅんが若い頃、人々は

王濛おうもうの息子、王脩おうしゅうとよく比較してきた。

許詢、これにすっげえムカついていた。


あるとき會稽かいけいの西寺で、支遁しとんが講義。

そこには王脩が参加していた。


何だとあの野郎、王脩のくせに

ご立派な講義に参加しやがって!

ムカついた許詢、西寺に出張ると、

いきなり王脩に論戦を吹っ掛ける!


対立する概念、AとB。

この両者はどちらが優れたものか。

そのような感じの議論だったようだ。


王脩がAの立場に、

許詢がBの立場に立つ。

喧々諤々の議論の末、

王脩、許詢に大敗を喫した。

すると許詢、今度は言う。


「おい今度は俺がA、お前がBだ」


そうして議論を再開してみれば、

やはり許詢が、王脩をコテンパン。


ドヤ顔の許詢、支遁のほうに向く。


「ハハッ、あなたのお弟子サマも

 大したことはありませんな!」


すると支遁、

落ち着き払った面持ちで言う。


「なるほど、あなたはいっぱしの

 論客でいらっしゃるようだ。


 しかし、そこまで

 けちょんけちょんにする必要が

 どこにあるのだろうね?


 議論とは、理を求めて

 なされるものだと思うのだがね」




許掾年少時,人以比王苟子,許大不平。時諸人士及於法師並在會稽西寺講,王亦在焉。許意甚忿,便往西寺與王論理,共決優劣。苦相折挫,王遂大屈。許復執王理,王執許理,更相覆疏;王復屈。許謂支法師曰:「弟子向語何似?」支從容曰:「君語佳則佳矣,何至相苦邪?豈是求理中之談哉!」


許掾の年少なる時、人は以て王苟子と比ぶるも、許は大いに平らかならず。時の諸人士、及び法師の並べて會稽の西寺が講に在りたるに、王も亦た在り。許は甚だ忿なるを意え、便ち西寺に往きて王と論理し、共に優劣を決さんとす。苦はだ相い折挫せるに、王は遂にして大いに屈す。許は復た王が理を執り、王は許が理を執らば、更ごもに相い覆疏す。王は復たも屈す。許は支法師謂にうて曰く:「弟子の向の語は何に似たりや?」と。支は從容として曰く:「君が語の佳なるは則ち佳なれど、何ぞ相い苦なるに至らんや? 豈に是れ理中の談を求めたるか!」と。


(文學38)




許詢さん隠者のくせにエグいよなぁ……

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