謝尚3  劉惔との間柄  

劉惔りゅうたん謝尚しゃしょう許詢きょじゅんを見る。

そしてまずは、謝尚に向けて言う。


「おれには四人の友がいる。

 ゆえに門人らは、

 おれに親しんでくれた」


劉惔さん自身は

結構エグい人品の持ち主である。

だが謝尚をはじめとした

「四人の友」のお陰で、弟子たちが

劉惔とも親しんでくれた、というのだ。


それから、許詢を見た。


「おれには子路しろがいる。

 だからおれの耳には

 悪口が届かずに済んでいる」


許詢は気骨の論客である。

その許詢が露払いをしているため、

劉惔のもとには面倒ごとが

やってこないで済んでいる。

そんなところだろうか。


言ってみれば劉惔、

自身を孔子こうしになぞらえているわけだが、

まぁ、当代トップの論客である。

ありと言えばありだろう。


そして、その劉惔が、二人を

孔子の高弟になぞらえている。


劉惔を深く認めていた

謝尚と許詢であったから、

このたとえに、不満はなかった。



実際のところ、謝尚は劉惔によって

推挙を受けた後、こう語っている。


「昔はあなたに

 頭が上がらなかったものだよ」




劉尹謂謝仁祖曰:「自吾有四友,門人加親。」謂許玄度曰:「自吾有由,惡言不及於耳。」二人皆受而不恨。

劉尹は謝仁祖に謂いて曰く:「自ら吾れに四友有らば、門人は親を加う」と。許玄度に謂いて曰く:「自ら吾れに由有り、惡言は耳に及ばざるのみ」と。二人は皆な受けて恨みず。

(品藻50)


劉尹先推謝鎮西,謝後雅重劉曰:「昔嘗北面。」

劉尹は先に謝鎮西を推さば、謝は後に劉を雅重して曰く:「昔は嘗て北面す」と。

(賞譽124)




で出たー! 必殺引用アタック!

引用元を知らないやつは死ぬ!


尚書しょうしょ大伝より。

孔子が以下のように語っている。



文王有四友

 しゅう文王ぶんおうには、四人の友がいた。

 故に文王は業績を残した。

 では、私はどうだろう。


自吾得回也

門人加親 是非胥附邪?

 顔回がんかいを得ることにより、

 門人は私に親しみを

 覚えてくれるようになった。 

 顔回の周旋のお陰だろう。


自吾得賜也

遠方之士至 是非奔走邪?

 端木賜たんぼくし子貢しこう)を得ることにより、

 遠方からも賓客が

 訪問してくれるようになった。 

 子貢の奔走のお陰だろう。


自吾得師也

前有輝 後有光 是非先後邪?

 顓孫師せんそんし子張しちょう)を得ることで

 周囲に徳が行き渡った。

 子張の宣伝のお陰だろう。


自吾得由也

惡言不入於耳 是非禦侮邪?

 仲由ちゅうゆう子路しろ)を得ることで

 侮られることがなくなった。

 子路が守ってくれたお陰だろう。



注釈たちは「四友」を「回」の書き間違いだ、と推測しているのだが、うーん、どうだろう。あえて「四友」が正しい表現だ、としておきたいところだ。そうすると劉惔さんにとって最も親しかった四人の友である、となるだろうか。四人の友、誰だろう。謝尚を代表とし、王濛おうもう桓温かんおん謝安しゃあん、と言ったあたりだろうか。いや桓温さまだと圧強いかな? 王羲之おうぎしとか?


まーその後の許詢に対してのセリフが、「子路を得た」だから、どうしても「四友」が正しい表現である、と見なすのは筋が悪いんですが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る