王承3  母の郝氏    

王湛おうたんは結婚相手に恵まれていなかったが、

ある時郝普かくふの娘を娶る、と言ってきた。


父の王昶おうちょう、王湛のことを

ダメな奴だと思っていた。

そんな奴に良縁なんぞかなろうし、と、

王湛の思うがままにさせてやった。


そうしたら、どうだ。

妻となった郝氏、まさに良妻賢母。

兄である王渾おうこんの妻、鍾琰しょうえんと並び、

太原たいげん王氏の母の規範と呼ばれた。


そして、あの王承を生んだ、ともなれば。


不思議なのは、周りの人間である。

え、どういう基準であの人選んだの?

そんなことを、王湛に聞く。


「彼女が井戸で水くみをしていた時、

 その振る舞いが立派で、

 あちこちをきょろきょろと

 するようなこともなかった。


 それで、彼女が

 素晴らしい人だと悟ったのだ」




王汝南少無婚,自求郝普女。司空以其癡,會無婚處,任其意,便許之。既婚,果有令姿淑德。生東海,遂為王氏母儀。或問汝南何以知之?曰:「嘗見井上取水,舉動容止不失常,未嘗忤觀。以此知之。」


王汝南は少なきに婚無く、自ら郝普が女を求む。司空は其を以て癡とし、婚ず處に會す無くらば、其の意に任せ、便ち之を許す。既に婚ずば、果して令姿淑德有り。東海を生み、遂には王氏が母儀と為る。或るもの汝南に「何ぞを以て之を知らんか?」と問わば、曰く:「嘗て井上に水を取るに、舉動容止に常を失わざるを見、未だ嘗て忤觀せず。此を以て之を知りたり」と。


(賢媛15)



このエピソードは

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054885441823

と対照することによってより際立ちます。何せ本文中に出している鍾琰さん、どう控えめに見積もっても王渾より優れた人物だもの。その鍾琰さんに見出されている、郝氏。ただもんじゃございませんわ。


王昶

凄い人らしい。まあ司空しくうにまでのぼっていますしね。の割に登場がここだけなのは、結局「王湛の凄さを見抜けなかった」ってところになるんだろうなあ……と思ったら王隠おういんの晋書には「王湛の凄さは親父の王昶しか気づいていなかった」って書いてあったぜ。またかよ世説新語。


なおこの系譜が凄かったことは晋書でもビックリされていて、こんなふうに書かれている。「自昶至承,世有高名,論者以為祖不及孫,孫不及父」。昶、湛、承はみんなすごかったぜ、そしてランキング的に言えば湛→承→昶の順だぜ、とのこと。ランク最下位のじぃじを何とか孝の観点から一番初めに持ってこさせようという涙ぐましい努力が伺えますね?

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