王戎1  王太保を讃ず  

竹林七賢ちくりんしちけん 王戎おうじゅう 全10編

 既出:荀彧、曹叡1、鍾会4、武帝1

    武帝20、王渾1、王導32

    王導40、謝安16、劉伶1

    劉伶4、山濤4、嵆康1

    嵆康3、阮籍2



王祥おうしょうという人がいた。

琅邪ろうや王氏の一人、

王導おうどうさまから見れば大叔父にあたり、

王戎から見ると、……あれ?


王戎、琅邪王氏の

どこに繋がるのかわかってない?

まぁいいや。

こういう闇は忘れましょう。


まぁともあれ、同族の王祥について、

王戎さんが語っていた。


「王祥様は正始の時代に生きたが、

 何晏かあん夏侯玄かこうげん王弼おうひつと言った

 能言の者者らとは

 同列に扱われていなかった。


 しかしながら、そのお言葉は

 常に清遠の境地に至っておられた。


 思うに、その大いなる徳が

 かれのお言葉を

 覆ってしまっていたのではないかな!」



その王祥さんについて、

一編だけエピソードが記されていた。



王祥の母は早くに死に、

後妻として、朱氏が嫁いできていた。

朱氏自身は前妻の子を

毛嫌いしていたのだが、

それでも王祥は朱氏を母親として、

これ以上なく敬っていた。


例えば、庭に一本のすももの木があった。

この木になる実が美味であったため、

朱氏は王祥に、この実を守るよう

言いつけた。


あるとき、急の風雨があった。

既に多くのすももの実がなっており、

このままでは実が落ちてしまう。


そこで王祥、我が身を呈し、

泣きながら風雨から木を守るのだった。


そのようなことがあっても、

朱氏は王祥を認めない。

それどころか、遂には殺そうとさえする。


……まぁ、王祥が死ねば、自分の子が

家督を継げるわけですものねえ。


ある夜、王祥がひとり寝入っていた時。

朱氏、剣を持って忍び寄り、

王祥に向け、振り下ろした!


気配を察知したか、王祥は身を起こし、

なんとか剣を避ける。

そして剣は、むなしく布団を割いた。


慌てて逃げ出す朱氏。

一方の王祥は、悟る。

そこまで、彼女にとって

自分は邪魔だったのか、と。


なので王祥、自ら朱氏のもとに出向き、

ひざまずいて、首を晒した。


「母上、どうかこの身に、

 死を賜いますよう」


この様子に朱氏、ようやく悟る。

あぁ、この子は、真に私を

母として敬っていたのね……!


以降朱氏は、王祥を

自らの子と等しく愛するようになった、

とのことである。




王戎云:「太保居在正始中,不在能言之流。及與之言,理中清遠,將無以德掩其言!」

王戎は云えらく:「太保の正始中に居在せるに、能言の流に在らず。之と與に言すに及び、理は清遠なるに中り、將た德を以て其の言を掩う無からんか!」と。

(德行19)


王祥事後母朱夫人甚謹,家有一李樹,結子殊好,母恆使守之。時風雨忽至,祥抱樹而泣。祥嘗在別床眠,母自往闇斫之。值祥私起,空斫得被。既還,知母憾之不已,因跪前請死。母於是感悟,愛之如己子。

王祥は後母の朱夫人に事うこと甚だ謹なり。家に一なる李の樹有り、結べる子を殊に好まば、母は恆に之を守らしむ。時に風雨の忽ち至るに、祥は樹を抱きて泣く。祥は嘗て別なる床に在りて眠らば、母は自ら往きて闇に之を斫らんとす。祥の私起せるに值い、空しく被を斫り得たり。既に還らば、母が憾みの已まざるを知り、因りて前に跪き死を請う。母は是に於いて感悟し、之を愛すこと己が子が如くす。

(德行14)



王戎

竹林七賢の最年少にして、もっとも貴顕となった人。ここまで出てきたエピソードからしても、みんなから可愛がられていた、という印象である。じゃあ、ここから先のエピソードで、かれはどんなことを言っているのか。楽しみです。


王祥

高貴郷公こうききょうこう曹髦そうぼうの教育係と言う、めっちゃヤバい立ち位置の人。けれども節を貫き通して、かえって司馬昭しばしょうからの尊敬を勝ち取ったりしている。いま初めてまともに伝記を確認したが、ヤバいとしか言いようがない。上司から「三公に値するものしか持ってはいけない」とされた剣を授けられ、実際に三公に至った。引退の際にそれを弟(※もちろん朱氏の子だ)に渡せば、その孫がかの王導さんである。えっちょっとこの人カッコよすぎませんかね……。

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