郗鑒3  郗家の奴隷   

郗鑒ちかんさまの家には、北来人の奴隷がいた。

これがまた文章を能くし、

様々なものに通じている。


王羲之おうぎし、この奴隷のことを

劉惔りゅうたんさんに向けて褒め称える。

すると、劉惔さんは聞く。


「あそこの息子殿と較べてどうなのだ?」


息子殿。郗愔ちいんのことだ。

王羲之は答える。


「奴隷にしては優れている、

 と言うだけの話だよ。


 どうして郗愔殿と

 較べる必要があるのだ」


すると劉惔さん、バッサリ切り捨てる。


「郗愔殿に及ばぬのか。

 では、所詮はただの奴隷だろう」




郗司空家有傖奴,知及文章,事事有意。王右軍向劉尹稱之。劉問「何如方回?」王曰:「此正小人有意向耳!何得便比方回?」劉曰:「若不如方回,故是常奴耳!」


郗司空が家に傖奴有り。知は文章に及び、事事に意を有す。王右軍は劉尹に向かいて之を稱う。劉は問うらく「方回とでは何如?」と。王は曰く:「此れ正に小人の意向を有せるのみ! 何ぞ便ち方回と比ぶるを得んや?」と。劉は曰く:「若し方回に如からずんば、故より是れ常奴のみ!」と。


(品藻29)




劉孝標注では「郗司空」を郗愔に比定している。のだが、郗愔は司徒にこそなれ司空にはなっていない。この事実をどう認識するか、でいろいろ解釈は変わってくるのけれども、個人的には郗鑒説の方が物語として収まりがいいかな、という印象である。


というのも、奴隷をその家の主人と比較するって、それこそおかしな話だと思うのだ。っつーかそうやって認識すると「郗愔さんのことをどひどく悪し様に言っている」ようにも認識できますね。

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