「崔浩先生」紹介人物+α

群雄宰相編

司馬越1 借金マン    

東海とうかい王 司馬越しばえつ(「八王」) 全3編



八王の乱の勝者として、

西晋最後の権力者となった司馬越。

その配下には、多くの名士がいた。


その中の一人に庾敳ゆがいと言う人がいる。


彼について、後の世の庾亮ゆりょうさまは

「我が宗祖どのの存在感は、

 司馬越幕下の中でも抜きん出ていたな」

と評していた。


そんな庾敳さんの話である。



司馬氏宗族に取り入り、

権勢を恣としていた奸臣、劉輿りゅうよ

ちなみに劉琨りゅうこんの兄である。


権謀術数の限りを尽くし、

東海王・司馬越の側近にまで

のし上がった彼は、その悪賢さで

多くの人間を陥れてきた。


その中で、庾敳だけは

あまりものごとに関わらずにあったため、

劉輿の魔の手からは逃れられていた。


の、だが、庾敳が

倹約を重んじていたおかげで

家に多くの財産を抱えていた、と知ると、

劉輿、庾敳に持ち掛ける。


「司馬越様が千万銭を入用としている。

 いったん、庾敳殿に

 立て替えて頂きたいのだ」


もしこの申し出を渋るようであれば、

そこに難癖をつけて陥れてやろう、

そう目論んでいたのである。


後日司馬越、宴席にて

このことを庾敳に振る。


すでに酒でべろんべろんになっていた

庾敳、取り落とした帽子を拾って

無造作に頭にひっかぶってから、言う。


「あぁ、どーぞどーぞ。

 二、三千万は出せると思いますが、

 お好きなようになさってください」


あっさりと返されてしまい、

劉輿、これじゃ付け入る隙ないじゃん、

と、うぬぬ、となった。


後日、

このことを庾敳に聞く人がいた。

すると庾敳は答える。


「あんな小者の腹積もり程度では、

 わしの度量は測り切れんよ」




司馬太傅府多名士,一時俊異。庾文康云:「見子嵩在其中,常自神王。」

司馬太傅が府に名士多く、一なる時の俊異たり。庾文康は云えらく:「子嵩の其の中に在すを見るに、常に自ら神は王がごとし」と。

(賞譽33)


劉慶孫在太傅府,于時人士,多為所構。唯庾子嵩縱心事外,無跡可閒。後以其性儉家富,說太傅令換千萬,冀其有吝,於此可乘。太傅於眾坐中問庾,庾時頹然已醉,幘墜几上,以頭就穿取,徐答云:「下官家故可有兩娑千萬,隨公所取。」於是乃服。後有人向庾道此,庾曰:「可謂以小人之慮,度君子之心。」

劉慶孫の太傅府に在るに、時の人士は構わる所の為さる多し。唯だ庾子嵩は心に縱いて事より外れ、跡の閒すべき無し。後に其の性の儉にして家の富たるを以て、太傅は千萬を換わしめんと說き、其を吝しまば、此に於いて乘ずべきを冀う。太傅は眾坐が中にて庾に問う。庾は時にして頹然として已に醉い、幘を几上に墜とし頭を以て就け穿取し、徐に答えて云えらく:「下官が家、故より兩娑を千萬有すべし、公の取る所に隨う」と。是に於いて乃ち服す。後に有る人は、庾に向かいて此を道わば、庾は曰く:「小人の慮を以て、君子の心を度りたると謂うべし」と。

(雅量10)



 

司馬越(「崔浩さいこう先生」より)

晋国オモシロ集団自殺「八王の乱」をその類い希な政治力にて勝ち残った。宰相枠に載せるべきなのやも知れぬが、懐帝司馬熾しばしとは盛大にケンカ別れをしている。それにしても、苦労して内輪もめを勝ち抜いた先でどんどん勢いを増す匈奴を相手にせねばならぬわ、しかもそちらにかかずらっていた矢先に飼い犬に尻を噛まれるわともなれば、それはもう心労で死んでも仕方あるまい。かれの死が、実質的に西晋の滅亡を確定させるのである。


劉輿

八王の乱辺りで結構名が売れているのだが、めっちゃ奸臣枠ですねこの人。ただ晋書の記述だと、むしろその才覚でのし上がっているようにも見える。この辺りのミスマッチは司馬越評にもいろいろ引き摺られてるんだろうなー。「晋末宋初の人間の感情としては」司馬越周りはやはりクソ、と評されている感じなんでしょう。


庾敳

全然関係無い話だが「敳」字が出ない、どう頑張っても出ない。日本じゃぜんぜん使われてない字とのことで仕方ないんだが。ちなみに庾亮の父親のいとこ、という間柄にある。案外遠い。ちびでデブだったという事である。王衍おうえんと一緒に石勒せきろくに惨殺された。

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