桓温41 姪っ子もつおい 

廃帝はいていが廃され、海西公かいせいこうに落とされた時、

この動きに反発した庾希ゆき庾冰ゆひょうの息子)は

謀反容疑で殺された。


また、合わせて庾希の弟である庾友ゆゆう

連座して処刑されそうになっていた。


さて、そんな庾友の息子には、

桓温かんおんさまの親戚が嫁いできている。

弟、桓豁かんかつの娘である。


彼女は庾友の命が危ないと知ると、

ほとんど内着にも等しい格好で、

慌ただしく桓温さまの自宅に押し掛けた。

そんな彼女を、門番が止める。


「小役人ふぜいが、そこをおどき!

 何故姪が伯父に会うのを、

 アンタが邪魔できるって言うの!」


……こわっ。


こうして桓温さまのもとに

「突入」した姪殿、「号泣」して訴える。


「夫殿は人に頼らねば生きてゆけません。

 常人よりも、足が三寸も短いからです。

 このような者に、どうして謀叛など

 できましょう!」


いやいや。

それ全然謀叛できない理由にならないから。


とは言え桓温さま、姪殿の

この必死の振る舞いにほだされた。


「婿の為に、そこまで必死になれるとはな」


こうして庾友とその一門は、

特赦されるのだった。




庾玉臺、希之弟也。希誅、將戮玉臺。玉臺子婦、宣武弟桓豁女也。徒跣求進、閽禁不內。女厲聲曰:「是何小人、我伯父門不聽我前?」因突入、號泣請曰:「庾玉臺常因人腳短三寸、當復能作賊不?」宣武笑曰:「壻故自急。」遂原玉臺一門。


庾玉臺は希の弟なり。希の誅さるるに、將に玉臺は戮されんとす。玉臺が子の婦は宣武が弟の桓豁が女なり。徒跣にて進むを求むも、閽は禁じて內れず。女は聲を厲にして曰く「是れ何ぞ小人が、我が伯父の門に我が前むを聽かざるや?」と。因りて突入し、號泣して請うて曰く「庾玉臺は常にして人に因り、腳の短きこと三寸なれば、當に復た賊となる能うべからざらんや?」と。宣武は笑うて曰く「壻の故に自ら急さんか」と。遂にして玉臺の一門は原さる。


(賢媛22)




韓非かんぴ先生が聞いたら激怒して「おいこの楚猿ども軒並み殺せ」とか仰りそうです。というか東晋に残る逸話ってどれも、法家思想から見たら処刑もんな

エピソードがが多いですわのう。


まぁ、それ以上に儒、ってことですな。




庾友

詩人でもあるそうだ。


桓氏

なかなかの烈女だが、門番への態度とか、心底お近付きになりたくない。

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