第3話 ニシンのパイは原作にはない

 昨日、「魔女の宅急便」を放送していましたね。


 実はこの映画、初めて映画館でみた思い出の映画である反面、原作を読み込んでワクワクしながら席に着いた所始まったのがあの通り「……なんか原作と全然違う……」という内容だったので複雑な気持ちにさせられた映画でもあったりします。


 そんな気持ちが後を引いて長い間まっすぐに鑑賞できないアニメ映画だったのですが、今回みていてやたら素直に感動できるようになりました。

 昔は街全体でキキとトンボを応援する所なんかとても苦手だったのですが、今回は「この街の人は優しいなぁ。こんなところに住みたい……」とユーミンのエンディングテーマにあわせて妙に優しい気持ちになる始末。


 齢をとって丸くなったのか、疲れているのか、どちらかなんでしょう。もしくは「どちらも」なのか。



 トンボがキキをパーティーのエスコートにくる際にはちゃんと正装しているような所にもしみじみ感動してしまうし(きっと車を運転している不良っぽいイケメンの兄貴分に色々アドバイスしてもらってきたんじゃないかな、トンボもきっと緊張していたのだろう……と想像すると楽しい)、「斜に構える」という姿勢を解除すると見えてくるものもあってなかなか楽しいものでした。



 ところで魔女宅といえば、ニシンのパイを巡る一連のやりとりですね。


「あの孫娘が感じが悪い!」から始まって「要らないってちゃんと伝えてるのにニシンとカボチャのパイとか微妙そうな料理を毎回贈られる方も辛いよな……」という感想にシフトする時期が鑑賞者が大人になったかならないかの指標になるような(すみません、大きなことを言いました)。



 実は、ニシンのカボチャのパイの老婦人とキキとのやりとりが私に長年このアニメ映画に関するしこりのようなものでした。


 率先して薪のオーブンの準備を始めるキキ、電球の取り換えまでするキキ、代金を「こんなに……!」と一旦は遠慮するキキ。ああ、いい子すぎる。あの孫娘よりはるかに感じのいい女の子であるのは確かです。

 女の子とはあのように率先して仕事をせねばならぬのか……と家の手伝いをめったにしない怠け者の女子には心抉られる描写でした(まあ宮崎駿さんの映画では少年少女であっても体が機敏に動きそれに思考が追い付いてゆく鋭敏な頭脳を持つ子じゃないと淘汰されるようなところがありますよね。ケツがおもたくて愚鈍な怠け者には厳しい世界です)。


 終盤で老婦人から美味しそうなケーキをプレゼントするところとセットで心にグサグサきます。

 孫にはニシンとカボチャのパイなのに、キキには美味しそうなチョコレートのケーキかよ……。冷たい孫よりは可愛くて感じのいい魔女の女の子ってなる老婦人の気持ちも分からないでもないけども。


 どちらかというとキキよりも孫娘よりな人間だなという自覚のあった少女期から、なんとも辛い気持ちになる箇所でした。



 あの老婦人のセリフ「お母様のお仕込みがいいのね、段取りがいいわ」も耳には優しく響くけれども、キキのそれまでの半生をざっくり見抜いてジャッジする、なんとも恐ろしいセリフです。奥様として館を差配していたその半生を思わされます。

 怖いセリフではありますが、たったこれだけのセリフで老婦人の人柄(優しそうな老婦人にみえるが頭はしゃっきりしていて人間の見るべきところはきっちり見ている等)の殆どがすべて言い尽くされているので非常に秀逸なセリフでもあると思います。宮崎駿さんはこういう描写が巧みですよね。



 そんなこんなでついつい老婦人とキキと孫娘の関係に思いをはせてしまいがちになる映画でもあります。



 そこからついつい、後妻業ならぬ「理想の孫業」として裕福で孤独な老人をだまして財産をすいあげる不思議な少女のピカレスクものかノワールものとか、裕福で孤独な老人と不思議な少女が幸せな疑似家族みたいな関係を築いていたところに冷たい肉親がやってくる……という人情噺みたいな物語ができるんじゃないかと考えていた、此度の「魔女の宅急便」でした。



 ※よく考えれば、理想の孫ではなく理想の娘としてやってきてある家族を不幸に突き落とすお話ならすでにありましたね……。押井守の「御先祖様万々歳」など……。他にもきっとありそうです。


 2018年1月6日

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