第96話 真実9
「これ、外国語ですよ。英語です」
「外国語……英語は聴いたことが無いがなるほどな。外国語は専門外だから分からないのも仕方ないのだ。確かに言われると見たことがあるような文字なのだ」
「それにしても”勇者よ真実を見よ”か……」
「アラン殿が壁に手を合わせて発光が納まった時に現れたのだからアラン殿に宛てての文字なのだろう」
勇者よ真実を見よ、ね。それが私に宛てての文字なのか。聖戦士と勇者は同じ意味なのか?
さっぱりわからない。ただ、真実を見よってことはこれからがこの遺跡の深部なのかもしれないな。
「そうみたいですけど。勇者なんて大それたものじゃないんですけど」
「何を言っている。聖戦士なのだから勇者と同じような者だろうに」
「そうなんですかねぇ。実感なんてないですけど」
「まぁ、アラン殿はその楽観的な所が良いのだからそれで良いのかもしれんがな」
「ありがとうございます……」
楽観的か……。まぁ、そう言われるとそうかもしれないな。
今までも何とかなるかなって思ってやってきたわけだし。
「とりあえず、下に行きましょうか」
「うむ。行こうではないか!」
アルフさんは鼻息荒く足を前に踏み出している。
そんな中リリィは馬の背の上で欠伸をしていた。
そう言えば、結構な時間が経ったからリリィにとってはお昼寝の時間だったな。
大体、起きてから8時間程度は経っているのだ。
朝6時だとしたら、もう午後の2時だ。動けるとしても後、4時間で休憩を取った方が良いな。
そう決めて下り坂を行く。
中は驚くような光景が広がっていた。
部屋全体がまるで病院の施設のように真白で、その中心に円柱のカプセルが立っている。
そして、その中に入った人は――。
「――リリィ!?」
それは、リリィそっくりの黒髪の少女が貫頭衣を着せられた状態で入っていた。
歳の頃も一緒で瓜二つに見える。
「リリィそっくり」
「確かに、お嬢ちゃんそっくりなのだ。だが、黒髪のエルフ……。これは伝承の始祖のエルフではないかな?」
「始祖のエルフですか?」
「ああ、エルフ間で伝えられている。最初に生まれたエルフ。それが始祖のエルフだ」
これが始祖のエルフ。
最初に生まれたエルフか……。
そのカプセルに皆で近づく。
そして、私がそのカプセルに触ると光り輝き始めて中のカプセルが音を出しながら開いた。
「お、おお! 開いたのだ!」
「え、ええ。そうですね」
そのカプセルは開いたは良いが少女は目覚めはしない。
ただ、規則正しく息を吸う音が聴こえる。
どうやら生きてはいるようだ。
アルフさんはそのカプセルの周りをぐるぐると調べている。
と、アルフさんから声が掛かる。
「アラン殿! ここに数字と何かの文字が書かれているのだ。見て欲しい!」
「わかりました」
アルフさんの下に向かう。
「ここだこの文字と数字。西の歴と2040という数字だ」
ドクンと胸が鳴った。え? その数字ってまさか……。
そんなまさか!
「西暦2040年……」
頭の中が真っ白になった。
今まで出来た事とかそんな事など、全てが吹っ飛んだ
西暦2040年。それは、私がこの世界に来る前の世界の暦。
つまり――
「――私のいるこの世界は未来の世界ってことか……」
「未来の世界? どういうことなのだ! 教えてくれ!」
アルフさんに肩を掴まれて揺さぶられる。
だけど、それに答える元気など無かった。
体から力が抜けてその場に膝を付いた。
異世界だと思っていたこの世界は、現代の未来の姿だったなんて。
「は、ははっ……嘘だろ」
こんな、魔力とか魔法とか魔物とかがいるのが、そんな世界が未来の世界?
嘘だろ。嘘だと言ってくれよ!
それから、アルフさんが部屋を調べつくした後、無言で始祖のエルフを馬の背に乗せ、リリィがそれを支えながらその部屋を出た。
誰もが無言だった。
なんで、始祖のエルフがリリィと同じ姿なのか。
誰もが考えただろうけど、その問いに誰も答えられない。
そして、私はこの世界が未来の世界だ。という事実に苛まれて、人形のように遺跡を歩いていた。
空っぽな頭で遺跡を歩き、入り口に向かっていく。
そうして、いつの間にか遺跡の外に出ていた。何日経ったのか、なんて覚えていない。
頭はまだ、なにも考える事が出来ない。
その時、アルフさんから何か鉄を叩くような音が鳴り続けた。
「なに? ここで通信の魔道具が反応だと!? 一体誰が……はっ!? 星読みの巫女様!?」
星読みの巫女? 一体誰の事だ。
いや、もうそんなことどうでもいい。今は首都に戻って、静かに眠りたい。
ただ、それだけだ。
「はい。……しかし、宜しいのですか。はい。……はい。分かりました」
どうやら通信が終わったようだ。アルフさんが声を掛けてくる。
「星読みの巫女様から伝言だ。転移陣を使ってオオエドに来い、と」
「分かりました」
頭が空っぽなままだが、そのまま問いに答える。
「転移陣はここから一週間の北の森の中にあるのだ」
アルフさんが先導して、森の中を歩いた。
一週間後。森の中にポツンと石で出来た遺跡が見えた。
その遺跡の中心に幾何学模様が書かれている。
これが、転移陣か。
馬の上の始祖のエルフとリリィ。私とアルフさんが転移陣の中心に着くと、瞬時に空間が切り替わった。
そこには、石の周りに水が流れていて、部屋の最奥に綺麗な女性の石像が建っていた。
そして、後ろから扉が開かれた。
白い煌びやかな衣装を着た、華奢な女性が現れる。
「ようこそお待ちしておりました。私は星読みの巫女。エリナリーゼ=ラッセル。気軽にエリナと仰ってください。聖戦士様。それに女神様方」
は? この人は何を言っているんだ。聖戦士を知っているのも怪しいが、女神様”方”?
女性は2人しかいない。しかも、それも複数形で女神様方と言った。
つまり――。
「――ようやく。思い出しました」
馬の上に乗ったリリィが大人びた声で発言した。
ようやく思い出した? そうか。リリィは記憶喪失だったな。
「リリィ。記憶が戻ったのか?」
「はい。お兄ちゃん。そして、自分が何者かも。なぜ生まれたのかも思い出しました」
「な、なにを言っているんだ? リリィ。その言葉遣いも、さ!」
リリィは私の言葉を無視して発言を続ける。
「私は女神が星の力を受けて、生まれた言わば女神の分体。そして、この少女も――」
「――私も女神なのです」
始祖のエルフが、今まで起きなかった。始祖のエルフが目を開いて答える。
リリィと始祖のエルフはふわりと馬の背から降りると、お互いを見てその両手を繋ぎ合わせた。
すると、彼女たちから光が溢れ出てくる。
「「私達は女神。そして、星の危機を救う為に、星が生み出した存在」」
光が強くなり目の前が何も見えなくなる。
「リリィーーーーーーーー!」
そして、光が収まると、始祖のエルフは消えていた。
リリィだけがその場に残っていた。
「安心して。お兄ちゃん。それと、今から直ぐに守護龍の下に向かわなければ」
「はい。準備は出来ております。女神様」
「それは重畳。いつもありがとう。エリナ」
「いえ、女神様のご降臨。今か今かとお待ちしておりました」
私達を置いて、彼女達は会話を続けていた。
リリィと始祖のエルフはどうしたのか、とか。
二人は女神様なのか、何故始祖のエルフは消えたのか、とか。
星の危機を救う為に星が生み出した存在、とか
何一つ分からなかった。
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