第97話 真実10

 てきぱきと物事は進んでいく。いつの間にか旅の準備も整っており、馬車に乗せられた。

アルフさんとはここでお別れだ。

六人乗りの馬車に乗っているのは、私、リリィ、エリナさんの三人だ。

他は全て荷物が乗っている。


 そうして、馬車は走り出した。おもむろに問い掛ける。


「ここは、一体どこなんですか?」


「聖戦士様。ここはオオエド。聖戦士様には関東地方の東京と言った方が分かりやすいでしょうか?」


「……関東地方の東京!?」


その答えに驚く。やはり、ここは私が生きていた世界よりも、未来の世界のようだ。

ということは、首都のキョウトはそのまんま関西地方の京都だということにもなる。


「やはり、ここは未来の世界なんですね。どうして、そんな世界に私が……」


「それは、お兄ちゃんが『未来を救う可能性』を秘めているからです」


リリィが俺の呟きに返答した。


「『未来を救う可能性』? それはどういう意味なんだ?」


「長い話になるけど、お兄ちゃん聴いてください」


「うん。分かった」


覚悟を決める。もう、ここまできたら聴くしかないじゃないか。


「まず、西暦二千五十年に世界中で戦争が起こります。それによって、それは、大きなドクロ雲と爆炎を撒き散らし、世界中の大地、海、人も全てを汚染しました」


それは、二千五十年に世界大戦が勃発するということか? そして、大きなドクロ雲とは核のことだろう。

それによって、世界中が汚染されたと。


「地球という星は自身の生命力を使って、汚染された世界を治そうとしました。それによって、世界は救われた……。となれば良いのですが、星にも予想外の事が起きたのです。自身の生命力と汚染された大気が混ざり合ったのです。それが――魔力」


「魔法ってのは汚染された大気と星の生命力が混ざった物? じゃあ、魔物は一体なんなんだ?」


「それは、ドクロ雲の撒き散らした汚染濃度の高い地域。星がそれを治そうと多くの生命力を流し込んだ結果、生まれたモノ。魔力濃度の高い場所で、人や動物が長い間、汚染された事によって変貌してしまったモノです」


つまり、星の生命力とは人間でいう血ってことかな。それを垂れ流して、核汚染を治そうとした。

その血と核汚染が混ざって魔力が生まれ、魔物というモノも誕生した。

魔力濃度の高い薄いっていうのは、悪性腫瘍と良性腫瘍ということかな。

そして、なによりだ。魔力が未だに世界に満ちているということは――。


「星は今も生命力を流し続けている。ってことか?」


「その通りです。お兄ちゃん。ただ、星の生命力も無限ではありません。段々と、生命力が無くなってきました。恐らく、星の生命力は後、五十年もすれば尽きてしまうでしょう。そうしたら、星は大地や海に恵みをもたらす事も、汚染された地域を癒す事も出来なくなるのです。それは、すなわち星の死を意味する。それを回避する方法はお兄ちゃんが持っている」


待て待て、このままだと星は五十年で寿命になると? 

そんな事、私にどうすればいいんだ。何も持ってなんかないぞ。

それに、それを知っている。リリィ達は一体何なんだ。


「頭の中がこんがらがってきた……。まず、始祖のエルフ、リリィとエリナさんは一体何者なんですか?」


「私と始祖のエルフは女神。星が生命力を使って作り出した存在。始祖のエルフは西暦二千四十年に人々に争いを諌める為、星が生み出したの存在。結果は捕らえられ、眠らされて新人類として研究をされたのです。そうして、クローンとして生まれたのがエルフという人種」


な! 始祖のエルフは人類の戦争を止めるために星が生み出した? しかも、エルフはその女神のクローンと?


「そして、私。星読みの巫女は、始祖のエルフのお言葉を聴き、人々に注意を促す存在です」


なるほど。だから、始祖のエルフを助けて遺跡の外に出たら、アルフさんに通信の魔道具で連絡してたわけだ。

逐一、始祖のエルフの言葉を聴いて、こっちを見ていたのか。通りでタイミングが良すぎると思った。


「じゃあ、リリィは……?」


「私、リリィも星がなけなしの生命力で存在です。本当に、星の危機が迫ってきた為に、急遽生み出された存在。それが、リリィ。しかし、生み出したは良いのですが、なけなしの生命力で生まれた私は倒れ、記憶喪失となっていたのです。それを、キースさんが奴隷として発見。そして、お兄ちゃんと会い、今に至るわけです」


なるほど。リリィが、ハイエルフという存在が、一人で森の中に倒れていた理由はそういう訳か。


「一応ですが、納得しました。それで、私が『未来を救う可能性』ということは、どういう意味で?」


「お兄ちゃん。星が言っていたのお兄ちゃんは『未来を救う可能性』を秘めている。それを導きなさい、と」


「良く分からないな……私に何をして欲しいんだ」


「聖戦士様。具体的に聖戦士様にやって欲しい事は過去に戻ることです。そして、西暦二千五十年に起こる戦争を止める。それが聖戦士様の成すべき事なのです」


私に、世界大戦を止めろと? そんな事、一般人が出来るわけないじゃないか。

何を言っているんだ。


「私にそれが出来ると……? それに、過去に戻る。って言ったってどうやるんですか」


「聖戦士様。それは、これから行く。古龍国の守護龍様が、お教えくださいますでしょう」


エリナさんもそれ以上先の事は知らない。ってことか。

じゃあ、守護龍に会うしか道は分からないな。


「古龍国の守護龍……ね。分かりました。今はそれで納得します」


「ありがとう。お兄ちゃん」


リリィの頭を撫でる。嬉しそうに顔を赤くしながら顔を擦りつけてくる。

くすくすっとエリナさんが笑った。


「聖戦士様は女神様ととても仲がよろしいのですね」


「リリィが女神様だ。っていうのは、未だに理解できません。だけど、大切な存在だ。って事には変わりないですから」


そう、どんな事があろうと、今まで歩んできた日常は変わらないのだ。

リリィとの生活もそうなんだ。





 馬車に揺られながら道を進んでいく。そうして、三週間経った時だ。

馬車が止まった。一体何があったのかと外を見ると、洞窟が見える。

それに、先に誰かが来たのだろうか。馬車が一台止まっていた。従者もいる。

この先に誰かがいるのか。

暗く、先の見えないその洞窟は不気味に見えた。


「聖戦士様。着きました。ここに、守護龍様がお待ちです」


「この洞窟の中に守護龍が……。分かりました。行きましょう」


「うん。行きましょう。お兄ちゃん」


旅の準備をしてから先に進んでいく。

ランタンの明かりだけを頼りにどんどん中に入っていく。


 三時間は経っただろうか。大きな空洞が広がる空間に出た。


「よぉ、アランじゃないか! 遅かったな」


その懐かしい声は……。


「え! もしかして、アレンかい!?」


アレンは手を上げてこちらを見ている。その隣にも女性がいる。


「アラン! 待ってたわ……。ずっと、ずっと待っていたんだから」


「エリカ!? エリカまでいたのかい?」


エリカが私の胸に飛び込んできた。それを受け止めた。

エリカは涙を流しながら胸に顔を埋めている。


「本当に、本当に待ってたんだから……。和(・)人(・)さん」


「え? 今、なんて言ったの? エリカ」


問いかけるが、その時、頭に言葉が直接、響いて来た。


(茶番はそこまでにしてもらおうか。お前たち)


なんだ? この声は、それに誰だ?


すると、大空洞の中から巨大な。とてつもなく巨大な龍が、地響きを鳴らしながら進み出てきた。


「聖戦士様。あれがこの古龍国の守護龍様。ヴェルディ様です」


「あれが、古龍国の守護龍。ヴェルディか……」


(お前が星の滅亡を救うという聖戦士か)


「はい。自分では、聖戦士とか言われてもしっくりこないんですが、そう言われてます」


(ハハハッ! そうか。面白い。今から我がお主達、人の可能性を見定めよう。その試練を乗り越えれば、聖戦士を過去に時空魔法で戻してやろう)


試練? それに時空魔法だって?

ヴェルディが言っている試練を乗り越えれば、俺は過去に戻ることが出来るのか。

一瞬、迷った。だけど、妻の姿を思い出す。

帰りたい。そう思った。そう願って、今まで戦って来たんだ。

周りの皆を見る。アレン、エリナ、リリィ、……エリカ。皆、頷いてくれた。

ありがとう。私の為に……。


「分かりました。その試練。受けます!」


(結構、では試練を始めるぞ!)


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