第74話 安息6

冒険者ギルドに入って、いつも通り誰も並んでいないノインさんの受付に向かう。

ノインさんは肘を付いて窓の外を眺めている。

いつも思うけど、それで良いのか受付嬢。


「ノインさーん」


「お、アランにリリィじゃねーか。どうした?」


「一緒にご飯でも行きませんか?」


「一緒にいこ」


「ああ、良いぜ。丁度、昼飯時だしな」


受付から出て、こちらに来る。


「んで、今日は何を食べるんだ? 流石にまた連続でとんかつは嫌だぞ」


失敬だな。そんな事はしないさ!

でも、美味しいから私は別に毎日1食くらいならとんかつでも良いんだけどな。


「今日はリリィがパスタを食べたいらしいのでそれを食べに行こうかと。ってことでお店紹介してくださいよ」


「ったく、女を誘ってるんだから事前に調べておけよ。まぁ、良いけどな。とりあえず、行くぞ。紹介してやるから」


ノインさんって女性だけど、なんかそんな感じしないんだよね。

友達感覚っていう奴ですかね。

まぁ、可愛いですけどね。黙っていればだけど。


「ありがとうございます」


「ノインお姉ちゃんいこー!」


リリィはご機嫌だ。ノインさんに頭を撫でられている。

可愛がられているようでなによりだ。


「さ、行くか」


「はい。行きましょうか」


「おー!」



大通りを外れて北東に行く。

すると、洒落た食事処が並んでいる通りに入った。

そして、歩くこと5分程だろうか。

目的地に到着した。

看板にはパスタをフォークで絡めている看板が描かれている。


ここがノインさんの言ってたお店かな。看板を見て直ぐに分かるしね。


「着いたぞ。じゃあ、入るか」


「はい、お願いします」


「わーい」


お店の中に入る。中は木製の机と明るい雰囲気だ。

店内の客もゆったりとした感じで食事と会話を楽しんでいる。


「いらっしゃい。何名様で?」


「3人だ」


「では、窓際の席にどうぞ」


「あいよ」


ノインさんは手慣れた感じで席に向かう。

私達はその背についていく。

ここは男がリードするんだろうけど、まぁ気にしなくても良い相手だし良いか。


席に着いてメニューを見る。

メニューは6品と少な目だが、全てに絵が描かれている。

文字が見えない人にも配慮しているのだろう。

店の細かな気配りを感じた。


「どうだ? 店の雰囲気も良いだろ?」


「そうですね。明るい雰囲気だし気に入りました」


「そうかそうか。ここは昼に日替わりセットがあるからそれがお勧めだぞ」


「そうですか。なら、それを私も頼みましょうかね」


「リリィもそれで」


「リリィにはお子様セットがあるからそっちにな」


「分かった」


店員さんが水の入ったコップを差し出してくるので、ついでにメニューの注文も行う。


「日替わりセット2つと日替わりセットのお子様用1つお願い」


「かしこまりました。少々お待ちください」



しばらくして、メニューが届く。

ミートソースのパスタにコーンスープとパンが一つ。

結構、量が多いな。男性の私としては嬉しい。


お子様用はパスタが少量になっていて、他のメニューは変わらない。


「じゃあ、食べるか」


「「いただきます」」


「それ、いつもやってるけどなんなんだ?」


「まぁ、食べ物への感謝の言葉ですよ」


「食べる事はありがたい事なんだって、だから感謝するんだってお兄ちゃんが言ってた」


「ふーん……まぁ、良いけど」


食事を取る。ミートソースを一口。

香味野菜と挽肉とトマトの味がとても美味しい。

コーンスープも一口飲むと、仄かな甘さが口に広がる。

それにパンがよく合う。


「パスタもスープも美味しいですね」


「だろ? 結構、有名な老舗なんだぜ」


「美味しい」


リリィは子供だが、それでも礼儀作法などはかなり教育されていたみたいなので、汚さずに綺麗に食べている。



そして、食事を取りながらノインさんの愚痴が入る。

それを聴きながら、頷いたり、聴き流しながら食事を取った。


「あ、そういやアラン。お前が倒した幼龍さ。逆鱗に傷一つ付いてなかったけど、どうやって倒したんだ?」


「そりゃあ、首を何度も斬って首を刎ねたんですよ」


ノインさんは頭を抱えて机に両肘をついた。


「お前な……龍の最大の弱点を突かずに倒すなんて……脳筋かよ」


「まぁ、あの時は正直、必死だったんですよ。逆鱗なんて忘れてました」


ノインさんは大きく息を吐く。


「……はぁ、まぁ良いけどさ。って良くはないんだけどな。昨日ジーク達のパーティーが持ってきた幼龍の遺体に逆鱗が傷一つ付いてないってことで大騒ぎだったんだぞ?」


「ん? 一体何があったんです?」


「貴族とか錬金術師協会とか魔法協会とかいろんな団体から無傷の逆鱗を求めて大騒ぎさ。荒れに荒れて、結局は今度にオークションをして競り落とす事になったんだよ」


「へー、それは大変ですね。逆鱗にそんな価値があるなんてなぁ」


「アホか! お前が元々は原因だろうが!」


「はははっ!」


「笑って誤魔化すな! ったくよー」


どの程度の値段が付くのかね? 正直、気になるな。

まぁ、遺体はジーク達に上げるって言っちゃったし、未練はないけどね。


「ああ、それとな。昨日、西の隣村から早馬が来たんだよ。なんでも2日で来たそうだ。馬も人も大分、弱ってたらしい」


「ほうほう。それで、なにかあったんです?」


「いや、ギルド長と話をしてそれで、一晩休んで貰ってる。まだ、依頼は出してないみたいだけど、かなり大きな依頼になりそうだ」


隣村って幼龍が現れて、壊滅しそうな村でしょ?

またなんか厄介事に巻き込まれたのか。

本当にあの村なにか呪われているんじゃないか?


「そうですか。それにしても早馬で来るくらいだからかなり危ない案件なんでしょうね」


「ああ、そうだなぁ。多分、今日の夕方かそれくらいには依頼の内容が受付に伝えられるんだろうよ」


「それにしても、あの村って報酬金払える程、お金があるんですか?」


「いや、ないさ。国から報酬金が払われるんだ。一応はあそこに村が無いと西から来る人達が困るからな。国としても放っておけないんだろうよ」


「なるほど。まぁ、私達はしばらく依頼を受けるつもりはないんで関係ないですけどね」


「何言ってんだ……Cランクのお前は確実に依頼に強制参加させられるぞ」

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