第75話 安息7


「ええ……それって拒否権はないんですか」


「今、首都にいる冒険者でランクの高い奴なんてCランクだけなんだぞ。それも、一人はジークがリーダーのパーティーで、もう一人はキンブリーって名前の奴のパーティー。あと、アランお前だ。

はっきり言って無理だと思った方が良いぞ」


ジーク達にキンブリーって冒険者パーティーか名前も知らないや。

それにしても、首都なのにランクの高い冒険者が少なくないか?


「やだなぁ。っていうか、首都なのに高ランクの冒険者少なくないですか?」


露骨に溜め息を吐く。

嫌だってさ、もう危ない橋は渡りたくないわけですよ。

もう、幼龍で一杯です。それでも死にかけたんだからな。


「高ランク冒険者は首都から直接に指名依頼を受けて辺境に行ったり、辺境で魔物を狩ってたりするからな。首都みたいな危険の少ない場所じゃあ、高ランク冒険者はいないってわけ。つまり、お前たちが主戦力な訳よ」


ははぁ……なるほどね。確かに、首都の近辺じゃ稼げないしね。

幼龍の討伐が放置されてたのも高ランク冒険者がいなかったからなんだろうな。


「分かりましたよ。観念します」


両手を上げて降参する。

仕方ないけどしょうがないね。

それに、まだどんな依頼なのかはわかっていないしそこまで脅威ではないだろうよ。

幼龍がまた現れたとかなったら全力で逃げるけどね。


「分かれば良いんだ。とりあえず、二の鐘がなったら来てくれ。ギルド長から説明があるらしいからよ」


「ギルド長直々の説明か……」


いよいよきな臭くなってきたな。

まぁ、覚悟を決めるしかないか。


「そう、嫌な顔をするなよ。アランなら大丈夫だろ。幼龍殺し(ロリコンバスター)さんよ」


「その呼び名止めてくださいよ。幼龍殺したのは確かですけど、その名前はおかしい」


「全然可笑しくないだろ。大金で小さい子を買ったんだしよ」


「まぁ、事実だけを言うとそうなんですけどね。でも、それも事情があったわけですから……」


「お兄ちゃんはやっぱ大人の人の方が良いの?」


リリィが蒼い瞳を潤ませて見つめてくる。


「あぁー! もう止めてください。ほら、リリィも! 私はリリィだから良いんだよ。小さいとか大きいとかそんなの関係ない。リリィと一緒に居たいだけだよ」


「お兄ちゃん……」


頬を赤らめてリリィはフードで顔を隠す。

そんな照れないでくれ! 自分で言ってても恥ずかしいんだから。


「やっぱ、ロリコンだろ」


「違う!」


こんなに荒らした本人は楽しそうに笑っている。

全く、良い性格してるよ。


「まぁ、明日は必ず来てくれよな」


「ええ、不本意ながら行きますよ」




食事をして、会計をしたところで、ノインさんとは別れた。

私たちはそのまま図書館で調べものをすることにする。


図書館に入ると受付の人が「おかえりなさい」と声を掛けてくれた。


「はい、戻りました」


「戻った」


「それにしても、良く覚えていますね。他にも人は来るでしょうに」


「図書館に来る人は滅多にいませんから。来ても1人か2人くらいです。なので直ぐ顔を覚えてしまうんですよ」


ははぁ、なるほどね。

まぁそれもそうか。

お金を払ってでも調べたいという人は裕福な人か時間の余っている人が大半だしね。

普通の一般市民は額に汗して働いているんだろうし本を読んでる時間なんてないか。


受付の人に礼を言ってから、元居た席に着く。


次は精霊魔法についてだ。


これはリリィについての魔法だ。

リリィは精霊魔法について知っているんだろうか?

今度聴いてみようかな。


ページを捲る。


精霊とは魔力が意志を持った存在らしい。

正確には自然に宿る魔力が意志を持ったといった方が良い。

その存在は気まぐれで、精霊は人の言うことを聴かない。

だけど、同じ系統の魔法を使える者には興味を示すそうだ。

また、目では見ることが出来ず、魔闘気で観をしないと見れないらしい。

その精霊は丸い球体で、属性によって色が違う。

火だったら赤い球体。水だったら青い球体というようにだ。


そして、精霊魔法が普通の魔法と違う一番の点は、普通の魔法は呪文と魔力を使い、発現するのが一般的な魔法だ。

だが、精霊魔法は精霊を召喚するのに魔力を使い、使用者の意志で精霊達を操るという点だ。

そこに呪文は必要ない。


つまり、一種の召喚魔法みたいなものか。一度、召喚したらそれ以降、自分の意志で消すまで魔力は消費しない。

相反する属性は反発し合い、お互いに召喚する事は出来ないが、魔力の続く限り召喚はできるらしい。


なんか、横シューティングのオプションみたいな感じだな。グラディ〇スみたいだ。


だが、それ以外に面白そうな内容は書かれていない。

ハイエルフが使えるとか、祝福された人が稀に使える程度だとかそんなものだ。


この分野に関してはまだそんなに研究されていないのだろうな。

そもそも使える人も少ないし、それにハイエルフがこれに協力的だとは思えないからね。

ハイエルフは精霊を神聖視しているらしいから、その研究をしたいってだけでも襲われかねないのが実態だろう。

それでも、本としてあるのだから人の知識欲とは異常だな。



本を閉じる。

結局、元の世界に戻る手がかりは見つからなかったな。

まぁ、それも仕方ないか。こんな簡単に見つかるとは思ってない。

そもそもそんな魔法があるかもわからないのだ。



隣のリリィを見ると、こっくりこっくりと船を漕いでいる。

このままだと頭を机にぶつけてしまうかもしれない。


「リリィ。おいで」


「うにゅ……」


リリィは生返事を返して私の膝の上に乗る。そして、直ぐに体を預けて眠ってしまった。

まだ、リリィは子供だ。

昼食を食べてお腹が膨れた所に、本を読んでいたら眠くなってしまうのも仕方ない。


手を伸ばしてリリィの呼んでいた本を掴む。

1冊を掴んでタイトルを読む。


四英雄と光の乙女というタイトルだ。


今から300年程前に活躍した英雄の絵物語らしい。

光の乙女は当初、旅をする。

その過程で、多くの人の傷を癒し、そして多くの魔物を討伐した。

誰もがその行いに感謝する。

そして、旅をする過程で仲間が出来る。

一人は紫電流の達人。

二人目は月影流の達人。

三人目は海神流の達人だ。

そして、最後の一人は精霊魔法を使えるハイエルフだ。

最後のハイエルフは仲間からも行くことに反対されたらしい。

だが、光の巫女のその在り方。善なる心に惹かれ、夜逃げ同然に着いて来た。

そうして集まった5人はその当時、人を襲う四魔将と魔王と対決する事を決意する。


戦いは長きにわたり、逃げては追い、追いかけては逃げを繰り返す。

遂に四魔将と魔王を追い詰めた5人は四魔将を討ち取る。

四魔将は赤い魔石を残し、消えた。

最後に魔王に戦いを挑むが倒すことはできずに光の乙女の封印術で魔王を封印することにした。


そして、四魔将を倒し、魔王を封印した5人の英雄は世界の人々から称えられる。

世界を救った英雄と。


在り来たりな英雄譚だ。

でも、光の乙女。

この言葉は知っている。これはエリカの事だ。

やはり、彼女は記憶を引き継いで旅をしていたのだろう。


それにしても、四魔将に魔王。

これは、古代魔法文明の本にも出て来ていた。

こいつらは不死身なのか?

一体いつからいるのだろうか?

古代魔法文明は500年前で、その時には四魔将と魔王はいた。

そして撃退したのだ。

その後に300年前。つまり200年後に光の乙女と四英雄が四魔将を討伐。

魔王を封印することに成功した。


ざっと計算しても200年以上は生きている事になる。

魔族もそういう存在なのだろうか。

不老の存在? そういえば、エルフも長命な種族だったな。

もしかしたら、時空魔法を知っている人がいるかもしれない。古代魔法文明時代についてもだ。

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