第65話 自由24
王位継承権第三位の王子の腕を斬り飛ばしたまさに悪者が、絶賛、逃げるのに使っているんですが、それは大丈夫なんですかねぇ。
「ヘンリー王子の腕を斬り飛ばした。張本人が脱出に使ってますけど、良いんですかそれは……」
「確かにその通りだ。でもね。私は今、幼龍を討伐した英雄を自分の店に招待しようとしているのです。そんな些事は気にすることはありませんよ」
些事とおっしゃいましたか。王子様の腕を些事と。
まぁ、斬り飛ばした私が言うのもなんだが、キースさんは肝の据わった人だな。
そもそも、どういう言った経緯で手に入れたのかも気になるけどそこは一旦置いておこう。
暗い道を使用人が先導していく。
半刻程して、使用人が壁を調べている。
そして、どこかを見つけたのか。煉瓦積みの一角の石を押し込むと壁が消えて、階段が現れた。
使用人の人とキースさんが迷いない足で階段を上っていく。
私もリリィの手を引っ張って着いていく。
頂上に着いたのか、使用人の人が上にある石床を横にずらすと明るい光が目を襲う。
眩しさに慣れるまで少し時間が掛かったが、外に出るとそこはキースさんの商店の客間だった。
「ふぅ……何事もなく着いて良かったです」
「キースさん。あなたはいったい何者なんですか?」
そう尋ねると、彼は腕を組み髭を人撫ですると、
「別に、ただの高級奴隷商人ですよ。ただ、ちょっと、王族とご縁がある程度の」
それはちょっとで済むような程度の問題なのだろうか。
まぁ、良いか。
それよりも現状を確認しなければ。
キースさんもタダで私達を見逃してくれるとは思わない。
何せ、ヘンリー王子の腕を斬り飛ばした張本人だ。
「まぁ、それは分かりました。で、キースさんは私たちを助けて何かのメリットがあるんですか?」
助けてもらってこの言い様は酷いが、正直、言って私たちは重罪人だ。
それを助けるメリットなんて見込めないだろう。
「メリットなんてないですよ。強いて言うなら、幼龍の討伐をしたアランさん。あなたの気に入ったから。……それだけでは不満ですか?」
「ええ、流石に重罪人の私を一個人の気分で庇うなんてちょっと勝機とは思えませんね。流石に信用できませんよ」
「はははっ! 確かにその通りですね。でも、さっき言ったことは本当です。Dランクにして、幼龍を討伐した英雄。それをむざむざ衛兵に突き出してしまうなんて、そんなこと勿体無い。いえ、惜しいとは思いませんか?」
どういうことだ?
私にそれだけの価値があると?
そして、この人は何を私に求めているんだ?
「一体、私に何を求めているんですか?」
単刀直入に問いただす。
それでも、キースさんの態度は変わらない。
「そうですね。でしたら、今日の夕方頃に恐らくさるお方がいらっしゃるでしょう。その時に隣の部屋で聴いてみてはどうです?」
「さるお方ですか? その人の詳細について伺っても宜しいですか?」
「それは、私だけでは決められませんので、申し訳ないですが、ご容赦願います」
それだけ身分の高い方ってことか。
さて、藪をつついて蛇がでるかそれとももっと凄い物か……。
「まぁ、夕方まではまだ時間があります。それまで、ゆっくりしてください」
「分かりました。……あ、そうだ。リリィの奴隷魔術を解いて貰って良いですか?」
「……良いですが、本当に宜しいのですか? 今は奴隷魔術で精霊魔法も封じてますが、それも解いてしまえば、使えるようになります。はっきり言って、手が出せないでしょう」
「それでも、構いません」
「わかりました。では、奴隷魔術を解きます」
キースさんの声と共にパリンとなにかが壊れる音がする。
目に魔力を流して魔力を見るとリリィとキースさんの間にあった縄のような魔力が消えている。
「これで、リリィは奴隷とは見分けつかなくなりました」
「ありがとうございます」
「いえいえ、まぁ、疲れたでしょう。お休みください」
使用人の人にリリィと共に一室に案内される。
扉が閉められた瞬間、どっと力が抜けてくるのを感じた。
「お兄ちゃん。大丈夫?」
「ああ、ちょっと疲れたから寝ようかな」
「じゃあ、私も寝る」
二人でベッドに入って手を繋いで寝る。
馬車で旅をしていた頃を思い出して、直ぐに寝てしまった。
コンコンとドアをノックする音が聴こえて、目を覚ました。
隣を見るとリリィがまだ寝ていた。
起こさないように静かにベッドから出て、扉を開けた。
「そろそろ、キース様が会談をするのでこちらへ」
「わかりました」
リリィを置いて、使用人の人に着いて行く。
通された所は先ほどまで使っていた客間だった。
「隣の客間にキース様がいらっしゃいます。声を聴くならベランダから聴こえるかと」
「ありがとうございます」
ベランダに出て隣の客間を覗く。ベランダには隙間が空いていた。
私が盗み聞き出来るように配慮してくれていたようだ。
中には和服を着た貴族の人とキースさんだ。
耳に魔力を流して盗み聞きをする。
「オークション会場の一件は大変だったそうだな」
「ええ、場を納めるのに難儀しました」
「私の弟がしでかした事とは言え済まなかったな」
私の弟? ってことはヘンリー王子のお兄さんってことか。
え、それって第一王子か第二王子ってことじゃないか!
「そんなことありません。して、ヘンリー王子はどうなされました?」
「死んだ」
は? 死んだ? 腕を斬り飛ばした程度だぞ? そりゃあ、失血死する可能性もあるけど、王子だぞ? そんな下手な扱いするわけがないだろ。
「…………」
キースさんも余りの事に声が出ないようだった。
「医療院に連れて行こうとするもその間に意識を失ってそのまま亡くなった」
「……それは、本当でございますか?」
「そういう”事”になっている」
「なるほど。わかりました」
「いや、幼龍を討伐した英雄の話とハイエルフの少女の美談。誠に面白かったぞ。まぁ、弟の”事”は残念だが、仕方あるまい。素行が悪かったからな。寧ろ、都合が良かったというもの」
その男は笑みを浮かべていた。
「はは、そうですか」
「この件については緘口令が布かれる予定だ。英雄もハイエルフの少女もなにもお咎めはない。表面上は、な」
どういうことだ。ヘンリー王子は医療院に連れて行く途中で亡くなった。
だけど、この王子は都合が良かったと言った。
それって、もしかしてこの人がヘンリー王子を殺したということか!?
いや、そんなまさか。
でも、考えれば考えるほど思考は沼に嵌っていく。
それに、私たちについてもお咎めはないとの事。それ自体は有難い。
だが、表面上は。と言った。それは、実際には貸しを作ったということになるのか。
「なに、幼龍を討伐した若い英雄だ。これから、存分に活躍してくれるだろう。その為にも、この件は無かった事にするのが一番良い。それが、この国益に最も良いからな」
「それは、有難い話です」
「それにしても、キースから話があると呼び出されたが、気になっていたのはその二人についてか。よっぽど気に入ったようだな。我も一回話をしたいものだ」
「王位継承権第二位のヴァルト様が気にする程の事ではありません。なに、少し首都までの護衛を頼み、そしてその男が幼龍を退治して、私共の商品を買って行かれた。ただ、それだけでございます」
「ははっ! まさに絵物語のような英雄だ。その者たちの動向は面白そうだな。今度から色々と教えてくれよ? キース」
「ははっ! 分かりました。ヴァルト様」
「うむ。では、我はこれで去る。ではな」
キースさんはその姿が見えなくなるまで頭を下げ続けた。
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