第38話 羨望16
敵との距離はおよそ5間。まだ必殺の間合いではない。
相手は剣を抜き、上段に構える。
私も片手半剣を抜き、上段に構える。
奇しくも構えは同じ。
「ほう、もしかしておめえさん。紫電流か?」
「そういうあなたはやっぱり紫電流なんですね」
内心確信してはいたが、同門対決になるとはな。
紫電流は一撃で敵を倒すという剣技だ。
つまり、一撃の重さと速さが優れている方が必然的に勝つことは当たり前のことだ。
私は内心焦っていた。
紫電流は防御を全て捨てて、相手を斬り殺す剣技。つまるところ相手よりも少し早い程度の剣技ではこちらも相手の一撃を食らってしまうということ。
それはすなわち、死ぬと考えてもいい。
距離は5間。
じりじりと二人とも足をゆっくりと進める。
汗が額から流れ落ちた。
息が苦しい。
必殺の間合いまではあと少しだというのに体が行くことを恐れていた。
距離はじわじわと狭まる。
まるで長い間、対峙しているかのようだ。
1時間、いや、2時間は対峙しているかのように感じた。
だが、実際には1,2分程度なのだろう。
呼吸が荒くなる。
相手も額から汗を流し、呼吸が荒い。
相手も自分の必殺の間合いに持ち込むのに必死なのだ。
距離は4間になった。
今だ!
もう、瞬動から相手を右逆袈裟に斬り付ける。
相手はこちらの速さに驚いて一拍遅い。
だが、相手が、私の剣をいなす。体格差で負けているので斬る事は出来ず、剣の先端を斬るまでに至る。
そして、相手を抜き去る。
軽かったか! クソ! だけど、まだ終わりじゃないぞ!
私は居合の構えで全力で振り返る。
魔力を込めた足でブレーキをかけて反転する。
相手は足を一歩引いて居合の構えでこちらを振り返っていた。
紫電の太刀が来る! でも、もう止めることなんて出来ない。
全身に魔闘気を巡らせて全神経で抜刀。
相手の方が出が早い!
でもこちらも負けられない!
一拍遅れて抜刀。
紫電の太刀が交差する。
一瞬の沈黙。後、絶叫。
「ぐああああああああああっ!」
「グゥッ!」
私の身体に逆袈裟に刃の線が走っていた。血が滲むが、それは薄く、致命傷ではない。
お頭の右腕は吹き飛んで宙をゆっくりと回転しながら地面に落ちた。
「ちくしょう! まさかこの俺が! 負けるだなんて」
「いや、私も紙一重の差だった。もう少しあなたが踏み込んでいたら負けていたのはこっちだった」
自分の中でも、実際博打の部分は大きかった。だけど、出来るという可能性と期待はあった。かくして敵の右腕を切り落とせた。もし、一撃目で相手の剣の先端を斬れなかったら、こちらは絶命していたかもしれない。
「まだ、抵抗しますか?」
「……いや、投降する」
「そうか。なら人手が来るまで手当をするよ。ロープで縛らせては貰うけどね」
私は5人をロープで纏めて縛り、重症である盗賊の頭に布で右上でを巻き付け、ポーションを飲ませる。骨折している人には悪いけど、包帯はないのでそのままで居てもらうことにした。
そうこうして、2時間くらいすると。遠くから松明の火が4,5本見えてくる。ジャックに頼んだ増援が来たようだ。
「アラン! 大丈夫かい!?」
「あぁ、大丈夫さ。ピンピンしてる」
中にはジャックと村長にギルド長と宿屋のおじさんともう一人の若い男性がいた。
「まさか一人で盗賊を倒しちまうなんてねぇ。はっはっは! 凄いじゃないか」
ギルド長が私の背中をバンバン叩いてくる。痛いからやめてください。
「あ、こいつは隣町のDランク冒険者じゃねぇか! まさか、消えたとは噂になってたが盗賊になってたとはな!」
宿屋のおじさんも驚愕していた。なるほど、隣町のDランク冒険者か。まぁ、どういう経緯で盗賊になったのかは知らないけど、碌な話じゃないだろう。聴く意味もない。
「さ、帰りましょう。私は疲れましたよ」
「そうだね。帰るとするか。ほら! 男共は盗賊どもを見張りながら進むよ!」
若い男の人とジャックに宿屋のおじさんはロープで固定された男達を連行して村まで帰った。
辿り着いた頃にはもう深夜になっていた。
「んで、盗賊の処遇はどうするんだい?」
「それはギルド長と村長に任せます。何分、余りそういうことには無縁でしたので、下手に突っ込むより良いかと」
「そうかい分かったよ。じゃあ、明日にでも冒険者ギルドに来ておくれ。今回の緊急依頼の報酬も出すからさ」
「わかりました。明日ですね」
私は、そのまま宿屋に戻って就寝することにした。
盗賊どもは誰もいない一軒家に押し込められたらしい。あの人たちの処遇はどうなるのかな。
まぁ、私には関係のない事か。
朝、宿屋で朝食を食べていると、おばちゃんから「昨日は凄かったんだってねぇ」とバシバシ背中を叩かれた。いや、まぁ、褒めてくれるのは嬉しいけど痛いです。
そして、冒険者ギルドに向かうと、ギルド長は受付におらず、席に座って待っていた。なので、対面に座って挨拶をする。
「おはようございます。ギルド長」
「おはようアラン。」
「昨日の盗賊の討伐したことについてなんですけど、それは緊急依頼って形だ貰って良いんですかね」
「ああ、あれは要請とか正式な手順をしている暇がない場合にする依頼だから事後から依頼書を発行するんだ」
「なるほど。して、その依頼書はどのようなもので」
「こいつだ。盗賊団の討伐と捕獲。難易度はCランク。討伐は1人50コル。捕獲は1人80コルだ。親玉は100コルだね。アランの場合捕獲したのが11人と親玉1人。討伐したのが3人だから1030コルってとこだね。他に依頼金も150コル出てる。だから合計で1180コルだ」
「それは凄い。一気に大金持ちだ」
「はっはっは。それだけ凄い事をしたってことさ。あたしが頼んだ傭兵が無駄になったのは惜しいけど、村に被害は出なかった。本当にありがとうよ」
そうだよな。ギルド長も村の為に尽力してたんだもんな。そう考えると、とても誇らしくなってきた。
その時、扉が開かれる。出てきたのはジャックだ。
「あ、アラン! 一ヶ月分の依頼の報酬を払おうと思って来たんだ」
「ああ、そういえばもうそんな時期だね」
忘れていたけど、もう一ヶ月経っていたんだったか。
ジャックが席に着くと、小袋からお金を取り出す。
「護衛日数が24日で240コル。鹿6頭で48コル。猪4頭で48コル。熊1頭で50コルだから。386コルだね」
「ありがとう。受け取るよ」
ジャックから銅貨3枚と鉄貨8枚に青銅貨6枚を貰う。
「いやいや、得物も取れたし、魔物も討伐してくれた。それに盗賊の討伐もだよ!」
「まぁ、運が良かっただけだよ」
「ほれ、アラン。こっちのお金も受け取りな」
ギルド長から1180コル。銀貨1枚。銅貨1枚。鉄貨8枚を受け取った。
それら全てを小袋に入れる。
「確かに頂きました」
「あ、それとアラン。冒険者証を渡しとくれ」
「はい? どうぞ」
ギルド長から言われたので、冒険者証を渡す。そうすると受付に戻って何かをしてからまた、席に戻ってくる。
「ほら、受け取りな」
「はい、ありがとうございます?」
カードにはランクの所がDランクになっていた。Dランク!? え、そんなにまだ依頼してないはずなんだけど。
「Dランクになってますけど!」
「Cランクの緊急依頼を大成功に納めた。それに、アランの依頼達成を合わせたら、ぴったしDランクになったってわけさ」
「そ、そうでしたか」
「まぁ、良かったじゃないか。でも、これからが冒険者としての実力が問われるところになってくる。くれぐれも油断するんじゃないよ」
「おめでとう! アレン」
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