第21話 目覚め20
眩い光が収束すると彼女の周りを淡く包み込む。
「エ、エリカ!」
デニスさんはエリカの手を握り、脈を測る。
「脈がある! い、生きてる。息もしている!」
「生き返ったのか!?」
「まさに奇跡だな」
「デニスさん! 直ぐに材料を集めて、薬を作りましょう!」
デニスさんは一瞬呆けていたが、直ぐに顔を張り詰め直して、力強く頷く。
「あ、ああ! そうだな。アラン君。月光花の蜜を出してくれ」
「俺が出す!」
アレンが私の背嚢から黒い試験管を取り出してデニスさんに手渡す。
デニスさんは「では、錬金術師殿のとこへ行ってくる」と言って、走り去っていった。
「エリカは大丈夫でしょうか」
「ワシにもわからん。だが、希望は出来た」
「そうだな。まだ、わかんねぇよな」
まだ、エリカが危険な状態なのは変わらない。だけど、それでも助かる可能性があることに私は喜んだ。エリカどうかまた笑顔を見せてほしい。
徹夜で錬金術師に薬を作らせて、出来たのは早朝になってからだった。
それから、薬をエリカの口元に流し込む。すると、包み込んでいた光は少しづつ消えてなくなり、エリカから聴こえていた呻き声はなくなった。今は、静かな寝息が響いているだけだ。
エリカに問題がないということがわかるとギルド長もアレンやデニスさんもその場に座り込んでため息を吐いた。
そして、4人でソファーに腰を掛ける。
「一時期はもうダメかと思ったけど、本当に良かった。でも、一体あれはなんだったんだい? アラン君がエリカを触った時に発光現象が起きたように見えたけど」
「ワシには見当も付かないが、恐らく今回の発光現象もアランが関わっているのかもしれないな」
「はい。今思えば、エリカが覚醒したのも私の背中の入れ墨? を触ったからでした。その考えで恐らく間違いはないかと」
「おいおい。助かったんだぜ? そんな原因の追求なんて今することじゃないだろ」
「倅は黙っとけ! これはな、下手したら貴族に対しての迫害行為に発展するかもしれないんだぞ!」
「そ、そんなことないだろ!」
「……いや、アラン君には正直、申し訳ないが、Eランク冒険者に指名依頼をして、その指名依頼を十日の深夜に達成。特別扱いをして依頼達成かと言われると審議が必要なくらいだ。それに、エリカが気を失った原因になっている事が一番の問題だ。これは冒険者ギルドにいた多くの人が目撃している。はっきり言おう。何がしかの処罰は覚悟してくれ」
「はい、わかっています」
「アラン!!」
「仕方ないじゃないか! デニスさんだって、領主様なんだ。このまま何もお咎め無しなんてことになったら、それこそ問題だ」
「そう……かもしれないが……」
「アラン君。なんとか軽い処罰に出来るようにするつもりだが、最低でも町からの追放だけは免れないだろう。……本当に済まない」
「いえ、良いんです。デニスさんの立場はわかってるつもりですから」
「そうかい。ありがとう。でも、治癒術師を呼んで怪我を治してから旅経つように手配しよう」
「ありがとうございます」
そうして、私は町からの追放処分が決まったのだった。
5日後。3日で骨折も胸のヒビも回復魔法で治してもらい、旅の準備に1日。お世話になったギルド員の人に挨拶をして1日経った。
早朝の門前にはギルド長とアレンと私以外、誰もいない。あれからエリカは未だに目を覚ましていない。だが、生きてはいるようなので、近いうちに目を覚ますだろう。
私は、ギルド長とアレンを見る。二人には戦いの仕方やここでの仕事も見てもらい、色々な面で支えてもらっていた。感謝してもしきれない。
「アラン。もう行くか」
「うん。このまま、ずるずると残ってても悲しくなるだけだからね」
「そうか。そうだな」
アレンも感傷に浸っているのか上を向いている。
「思えば、この一年いろんなことがあった。だけど、アラン。お前がいたから楽しかったぜ」
「うん。私も楽しかったよ。アレン」
「本当はアラン。お前について行きたかったんだ。だけど、すまねぇな。俺はこの町を離れる事が出来ねぇ」
「仕方ないさ。アランはBランク間近の冒険者だ。カラエドの町も素直に手放せるわけもないしね」
アレンは私の抱き着いて背中をバシバシと叩く。治ったばかりの肋骨に響くが、私はその手を止めずにされるがままに鳴っていた。
「アラン。お主には言いたいことがあった」
「なんです? ギルド長」
「その背の入れ墨についてだ。調べたが、良く分からなかった。だが、古い英雄の絵物語に光の乙女が覚醒せし時、聖戦士が現れる。彼の者たちは世界が混沌に包まれる時、大いなる光をもたらすだろう。と」
「なんだ? アランは英雄ってことか?」
「いや、そうとも限らないのだが。正直、それ以外わからない」
「いえ、記憶喪失はまだ治っていないけど、背中の入れ墨にも興味はありますし、その絵物語についても自分で調べてみようと思います。貴重な情報ありがとうございます」
「そうか。それとアラン。お主に餞別じゃ。受け取れ」
そう言って、鞘に入った剣を渡される。
「良いのですか?」
「ああ、抜いてみろ」
抜いてみると、刀身は120cm程で厚みのある剣が眩く太陽を受けて輝いている。
「バスタードソード。片手半剣だ。ワシが現役の頃使っていた一品だ。鞘には自動で剣の手入れをしてくれる魔法がかかっている。お前の手助けになるだろう」
「ありがとうございます。師匠!」
師匠と呼ぶとギルド長は嬉しそうに鼻を鳴らすとそっぽを向いた。その仕草にアレンと私は笑った。
「俺も、アランに餞別がある」
「投擲用のナイフを8本と短めの片手剣だ」
アレンから投擲用のナイフを8本受け取り、短剣みたいな片手剣を受け取る。
「ありがとう! ちなみにこれはいったい?」
「冒険者稼業をしていく時に、どんな状況でも剣を振り回せる状況かは分からないからな。いざって時の為に、狭い洞窟や屋内でも使えるように持っといてくれ。まぁ、お守りみたいなもんだ。大事に使ってくれよ!」
「わかった。大事に使うよ!」
「それとアラン。良い忘れていたが、これを受け取れ」
それは羊皮紙だ。丸めてあるそれを紐解いて中を見ると、地図が書いてあった。その地図の赤い丸の所に小さく剣の聖地と書かれていた。
「それは、剣の聖地。多くの剣の強者が集まり、研鑽を積む場所だ。紫電流の剣神や月影流のあらゆる使い手に海神流の剣神もいる。道に迷い、壁を乗り越えねばならない時にここに行くが良い。必ず、力になるはずだ」
「なにからなにまで、ありがとうございます」
そうして、彼らと他愛もない話をした後に、アレンとギルド長は去っていった。
さて、私も旅立とう。
約、一年間もいたカラエドの町ともこれでさよならだ。
アレンともギルド長ともしばらくは会えないだろう。もしかしたら今生の別れかもしれない。それはとても悲しい。
でも、仕方ないことだ。もう、この町にいることはできないのだから。
さぁ、目的地は首都。古龍国キョウト。カラエドから、徒歩で二ヶ月はかかるだろう場所だ。
ここで、異世界の事や先ほどのギルド長の言葉。聖戦士や光の乙女の話。もしあるならば、魔法なんてものも調べて転移魔法や次元魔法の事を調べれば、元の世界にも帰ることが出来る可能性も0ではないのだ。
カラエドの門を潜り抜けてキョウトに向かう。
ふと、エリカの事を思い出した。エリカは意識を回復しただろうか。
結局、彼女には何も言えずにこの町を出ることになってしまった。
彼女は怒るだろうか。いや、絶対に怒るだろうな。
でも、そうだ。きっといつか会える。
そんな予感がするんだ。
だから――それまで。
――さようなら。
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