第16話 目覚め15
「……ああ、これは間違いなくCランク級の能力はあるな。たった、九ヶ月でオーガを倒すのか……末恐ろしいな」
「ま、まぁ、それは置いておいて、これで目的は達成ってことで良いですかね」
漁夫の利で傷ついたオーガを倒して手に入れた魔石だ。正直、正々堂々ではないので、余り誇りたいことではないからね。
「ああ、文句無しじゃ」
「そうだな」
「んじゃ、アラン! 731コルだ。あいよ」
「ありがとうございます」
小袋に貨幣を集めて渡してくれる。私は直ぐに中身を確認した。銅貨7枚、鉄貨3枚、青銅貨1枚だ。小袋に再び入れる。私は、魔物を倒して手に入れたお金だ。喜びも一塩だった。大事に背嚢に入れた。その後、ギルド長に言われて、冒険者証の更新を行った。依頼をこなしてないけど、ランク上げちゃって良いのだろうか。これは職権乱用では? そう聴くと「馬鹿もん! お前なんかがFランクだとこっちの面子も問題あるんだ!」と怒られた。ギルド長はDランクにしたかったらしいけど、一応、規約でEランクになりました。わーい。
その後、祝勝会ということで三人で昼食を取ることになった。当然、エールはアレンだけで、私とギルド長は普通の果実水だ。流石に昼間から酒を飲もうとは思わない。ギルド長もまだ仕事があるから飲まないのだろう。
だが、アレンは気にせずにエールを一気飲みして、エールを再び注文していた。
「っかぁ! 沁みるなぁ! まったく、アランも飲めばいいのに」
本当に良い飲みっぷりだ。そこまで美味しそうに飲んでいると私まで飲みたくなる。だけど、我慢だ。ってか、なんでアレンが一番嬉しそうなんだろうか。これって私の祝勝会だよね。
「私は良いよ。それにしても、サバイバル生活ではアレンに投擲術を習っておいて大分助かったよ。あれがなかったらかなり厳しかっただろうしね」
「良いってことよ。アランがこんだけ成長してくれて俺は嬉しいぜ」
「あはは、ありがとう。まぁ、2本程ダガーが折れちゃったけどね」
「良いさ。どうせ露店で買った1本10コル程度だ。大したものじゃない」
沈黙を貫いていたギルド長がふと私に声を掛けてきた。
「アラン。お主は生き物を切る恐怖を払拭出来たか?」
「そうですね。魔物相手ならためらうことは無くなりました。でも、良いものではありませんね」
「それでいい。斬るとはすなわち殺すことだ。その刃を罪のない人に向けない事を努々忘れるな」
「はい。ギルド長」
「なーに辛気臭いこと言ってるんだよ。小言は後にして今はぱーっと祝おうぜ」
「まったく、倅は……」
「ははは……でも、アレンの明るさには助かってますから」
「ならいいがな」
サバイバル生活での苦労話を時に面白く、悲しく話していると、冒険者ギルドの前に馬が石畳を駆ける音が聴こえ、その音が止まる。しばらくして、入り口の門からエリカが現れた。エリカが食堂にいる私を見つけると、足早に向かってくる。
「アラン! 帰ってきたのね! おかえりなさい」
私も立ち上がってエリカを出迎える。エリカは「どこか怪我はない?」と手や足を触った後、飛び掛かってきた。
「おっと、びっくりするじゃないかエリカ」
「えへへっ一ヶ月待ったから良いでしょ」
そう言って、彼女は首に両手を伸ばして体重をかけてくる。
その後、彼女が背中を触った時、突如として異変が起きた。
エリカの身体が光り輝き始めたのだ。真白の光が身体全体を包み込み。背中からは光の翼のようなものが出ている。
「なっなんだいったい」
私はエリカの身体を揺らすが彼女はもう瞳を閉じていて、意識はないようだった。
「アラン! エリカを直ぐに馬車に乗せて、領主様の館に迎え! 俺は治癒術師を連れて館に向かう! 急げ!」
「わ、わかった」
私はエリカをお姫様抱っこして駆け足で冒険者ギルドを出て、止まっている馬車の従者に経緯を説明して乗せてもらう。従者が馬を動かそうと手綱を取ろうとしたときにギルド長が馬車に乗り込んできた。
「ワシも乗せろ!」
ギルド長が席に着き、従者に声をかけて領主様の館に向かった。
向かう途中、ギルド長が微かに「覚醒が……」と呟いていたのが気になったが、今は一刻も早く、エリカを安静にさせることが重要だ。
頼むエリカ! 無事でいてくれ!
領主様の館に向かうと門兵に事態を伝えて直ぐに中に通らせてもらう。門兵も急いで屋敷に向かっていった。多分、領主様のデニスを呼びに行ったのだろう。馬車が中庭で止まったところで、私はエリカを抱えて、屋敷の扉を開ける。中では直ぐに、侍従が待っており、彼女の先導の下にエリカの部屋に向かう。
エリカの部屋に入り、直ぐに彼女のベッドに静かに下ろす。彼女の発光現象は未だに止まっておらず、さらに輝きが増しているようだ。耳を近づけて息を確認する。うん。荒い呼吸だが、しっかりと息はしている。
私たちは何もすることがなく、アレンの呼ぶ治癒術師を待つことしかできなかった。
扉が開いて皆の視線が開いた先に向かう。領主様のデニスが到着したようだ。
デニスはエリカを見ると、顔を両手で覆ってその場に膝をついていた。
「まさか、こんなに早く覚醒が起きるなんて……」
そう呟きが聴こえてきた。覚醒とはいったいなんだ。エリカのこの状態と関係があるに違いない。だけど、それを答えられそうなデニスは自分の殻に閉じこもってしまっていて話しかけても、ぶつぶつと呟いているだけだ。
再び扉が開かれるとアレンと僧侶の服装に身を包んだ人が現れる。あれがアレンの呼んだ治癒術師という人だろう。
彼女はエリカに近づいて、回復魔法をかけているが一向に目を覚ます気配も光が納まる気配もない。
「無駄だ」
「ではいったい?」
「治癒術師では治せない。これは病気ではないのだから」
「病気ではない? 確かにこんな症状は見たことがない。だけど、エリカは苦しみ続けているんですよ! 知っているなら教えてください」
「これは、覚醒だ……」
「……覚醒?」
「おいデニス。人払いをしろ。アランとアレンは残れ」
「わかった。おい、席を外してくれ。治癒術師には申し訳ないがチップを渡してお帰り頂いて貰いなさい」
「かしこまりました」と従者が言うと、治癒術師を伴い部屋を後にする。
そして、アレン、ギルド長、デニスと私が残った。
近くにある2人用のソファにデニスとギルド長が対面に私とアレンが座ると、ぽつぽつとデニスが話し始めた。
「私は入り婿なんだが、亡くなった妻の家系は特殊でね。英雄の血筋なんだ。皆からは光の巫女と呼ばている。今でも僕の妻も亡くなるまで、光の巫女と呼ばれていた。……いつしかある時を境に彼女の家系は女性しか生まれない呪いが掛けられた。それは、いつからなのか未だに分からない。そして、ある年齢を境に白く輝き、意識を失う」
「英雄の血筋? 女性しか生まれない呪い。それに白く輝くことと覚醒とはいったいどのような関係があるんですか?」
「……記憶と力を引き継いでいるんだ」
「記憶と力を引き継ぐだと?」
「ああ、約何百年前の記憶とそれまでに習得した魔法や技術等を全て引き継ぐんだ。今までの覚醒では18歳を機に覚醒が始まる。最初は何もしなくても受け継ぐ事が出来たらしいんだが、いつしか受け継ぐ事が出来ずに亡くなってしまうケースが出てきた。」
「それは、一体どうしてなんだ?」
「記憶と力に対して、彼女たちの受け皿が持たなくなってしまったからなんだ」
「そんな……18歳をって彼女はまだ13歳でしょう!? それに、受け継ぐ事が出来ないと亡くなってしまうんですか! なにか解決策はあるんでしょう!?」
「そうだ。実際にはまだ5年は猶予があると思っていたんだが、まさかこんなに早く覚醒が起きるなんてね。完全に予想外だよ」
「だが、助かる可能性もある」
ギルド長は強くそう答える。
「ああ、彼女たちが記憶と力を受け継ぐ為に、作り出した薬。門外不出の秘伝の薬が必要になる。それには特殊な錬金術でしか治せない。だが、それには必要なアイテムが5つある」
「それがあれば治せるんですね! その5つのアイテムはいったい?」
「一つは龍の涙。これについては、ランド家が代々集めているのでストックがあるから問題ない。
二つ目に風精霊の涙。これは所有していない。
三つ目に白王蜂の蜜。これも所有していない。
四つ目に富士の霊水。これも所有していない。
五つ目に月光花の根。これも所有していない。
これを秘伝の調合をして錬金術で作れば薬は作れる」
「では、直ぐに探しに行きましょう!」
「待て、アラン! 話は最後まで聴け」
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