第15話 目覚め14

 サバイバル生活が始まって三週間が経った。

私もサバイバル生活に慣れてきて、段々と魔物を倒すことに抵抗も無くなっていた。


「ヒャッハー! 肉だ!」


野生児のように大声を上げながら、3m級の蛇。ジャイアントスネークに向かい、敵が動き出す前に紫電の太刀で、首を刈り取る。

額にある魔石を取り除き、3m級の蛇の皮を剥いていく。そう、食料にするためだ。最初は抵抗があった蛇肉だが、1回食べて見たら鶏肉に近い味がしてそれ以来、好んで食べている。

蛇の皮を剥きながらこの三週間の思い出について考える。思えばいろいろなことがあった。

食用の野草と間違えて毒草を食べてしまい、3日間腹を下してしまったり。

小川にいた魚を食べたら毒を持ってたみたいで、2日間寝込んだり。

変なキノコを食べて1日中目を回して倒れたり。


本当に大変だった。それ以来、ジャイアントスパイダーまで食べている。いや、あれ案外美味しいんだ。蟹見たいな味がして美味しかったんだ。本当だよ。


500コル集めるという目的についても現段階では結構集まってきたんじゃないかな。


倒したゴブリン15匹。コボルト14匹。ジャイアントスパイダー6匹にジャイアントスネーク3匹だ。

F級の魔物の魔石が29個にE級の魔物の魔石が9個あることになる。

E級の魔狼が魔石のみで20コルだとすると、E級だけで180コル。

F級の魔物は恐らく3匹で20コル相当だと考えると193コル。

合わせて約370コルってとこかな。

まぁ、F級の魔物の魔石の価値がわからないけど大体こんなもんだろう。E級は以前にアレンが魔狼を狩った時に教えてもらったし合っているに違いない。

因みに、素材は何が売れるかわからないので何も剥ぎ取っていない。ちゃんと勉強しておくんだったなぁ。と言っても、急に追い出されたのでその時間もなかったわけなんだけどね。


考え事をしている間にジャイアントスネークの皮が剥き終わっていた。よし、あとは内臓を取り出して、これをベースキャンプに持って行って、まだ魔物を狩りましょうか。まだ、太陽は真上とまではいかないが、近くだ。正午だとすれば後4時間くらいは行動することもできる。


森の中を散策していると、異様な光景を見つけた。緑色の大人が魔狼4匹に襲われているようだった。魔闘気で目を凝らしてみると、緑色の大人には角が生えており、身長は180cmくらいだ。

恐らく、あれがオーガと呼ばれる魔物だ。あれは確か、Dランク相当の魔物ではなかったっけ。

魔狼だって群れならDランク相当だ。

それでも、オーガは長いこん棒を振り回して魔狼を圧倒している。腕や足に噛みつかれてはいるが、返しのこん棒で1匹ずつ頭を殴り飛ばしている。飛ばされた魔狼は倒れたままピクリともしていない。頭にこん棒の一撃だけで倒しているのだ。恐るべき膂力だった。


オーガが血を流しながらも最後の1匹に止めを刺したところで、私が乱入する。1匹でDランク相当の魔物。手負いといえども是非、手合わせしたい。

オーガもこちらに気づいて臨戦態勢を取る。私はオーガへ駆け出し右袈裟に切る。

だが、オーガは自慢の角を突き出して剣を受け止める。まさかこんなに硬いとは予想外だ! 

胴にこん棒が迫ってくるのを左の小手に付けている小盾で逸らして、身体ごと右に転がって距離を取る。


「ガアアアアア!」


手負いとはいえ小盾でいなしたのだが、左手が痺れていた。まともに食らったら骨折どころじゃ済まないかもしれない。

こちらも手を抜いてはいられない。上段に構えて、瞬動――右袈裟に振り下ろす。


「ハアアアアアッ!」


今度も、こん棒で受けれないと思ったのだろう。角で受け止めようとするが、今回は魔闘気で剣の威力を上げている。

角ごと切り落とし、オーガの身体を斜めに両断した。


辺りにちらばった魔狼4匹の額から魔石とオーガの心臓から魔石を取り出す。

魔狼に関しては漁夫の利というやつだ。有難い。記念に、切り落としたオーガの角も戦利品として持ち帰ることにした。


それにしても、オーガは強敵だったな。手負いの魔物だったとしてもあれほどの膂力だったのだ。あれが群れだったら勝ち目があったかも怪しい。

これで、魔石はEランクの魔狼4匹で80コル。Dランクのオーガ1匹で何コルだろうか? 50コルくらいはあるのかな。50コルと仮定すると130コル。今までの集めた魔石で約370コルだから、合計500コルってとこかな。これで、サバイバルでのもう一つの目的も完了したというところだろう。


後は、残り一週間生き残る事が出来ればいいだけだ。




 一週間後、私は他にジャイアントスネーク3匹とジャイアントスパイダーを4匹倒した。


「さ、ついに一ヶ月経ったな」


懐かしきカラエドの町を思う。八ヶ月しかいなかったけど、もう大分あの町の雰囲気に慣れてしまった。帰る道のりも少し足早になってしまう。

ふと、エリカの事を思う。あの子はいったいどうしているんだろうか。ギルド長にもアレンにも話したい事や愚痴を言いたい事は沢山あった。ああ、早く帰りたい!


歩いて体感で2時間程だろうか。門が見えてきた。早朝なので門前に並ぶ人の列はあまり多くない。これなら、30分もすれば町の中に入れそうだ。


門前の列に並んで、目の前の人たちが町中に消えていったあと、門番に身分証を提示されるように言われる。私は、冒険者証を門番の人に見せた。


「お、お前いつかの変な格好してた奴か」


どうやら、詰所で話しかけてきていた兵士の人だったみたいだ。


「おかげさまでなんとかやっていけてますよ」


「はははっ! ギルド長に地獄のサバイバルをさせられているんだって町中で噂になってたぞ!」


「えっ! そうなんですか? 参ったなぁ。そんなに目立ってましたか?」


「そりゃ目立つさ。こんなちょっと大きな町だ。ギルド長が本腰入れて鍛えている新人って聴いたら誰でも目に付くさ」


「そうでしたか。なんだか恥ずかしいなぁ」


「まぁ、そう言うなって。ほいっ冒険者証。サバイバル生活お疲れさん。今日は公衆浴場にでも行って身体を綺麗にしろよな。お前、かなり匂うからな」


「で、ですよねー。お言葉通り綺麗にしてから皆に会うことにします」


「おう、そうしな。じゃあ、またな。期待の新人さんよ」


門兵は軽く手を振る。私も手を振って、町中に入った。見れば大通りはいつも通りの喧騒と露店がずらりと並んでいる光景が目に入る。

うん。いつものカラエドだ。


私は、大衆浴場で服装の洗濯と浴槽に浸かりながら少し舟をこいでしまう。気づいたら浴槽の中で壁を背に眠ってしまった。




起きた時には正午を知らせる鐘がなっていた。私は、洗濯した服装と武具を装備し、背嚢を背に冒険者ギルドへ向かう。

冒険者ギルドの門を開けると、中は人がまばらにいるだけで閑散としていた。私は、そのまま受付のとこまで向かう。


「あ、アランさん!? お帰りなさい!」


受付嬢のアンさんが声を掛けてくれた。思えば彼女とも長い間、仕事をしてきた友人だ。最初から気にかけてくれたりと大分お世話になったなぁ。


「ただいまです。ギルド長とアレンはいますか?」


「は、はい! アランさんが来たらすぐに駆け付けると言っていましたのでちょっと待っててくださいね。呼んできますから!」


アンさんはそそくさと受付のカウンターを出て、二階に入って行った。

しばらくして、どたどたと音がして目を向けるとアレンとギルド長が近くまできていた。


「よく無事だったなアラン!」


「お主なら出来ると思っておったぞ。アラン!」


「なーにが出来ると思ってた、だ。3日前からソワソワしてたくせに!」


「なにおう! お主だってアラン、アランと煩かったじゃないか」


いきなり喧嘩をしだす、二人の変わらない様子にほっとしながら、彼らを宥めることにした。


「まぁまぁ、そこらへんで。とりあえず、サバイバル生活は一ヶ月乗り切りました。次は、もう一つの成果を見せようかと思うんですが、どうしたらいいですか?」


そう言って、小袋にパンパンに膨れ上がった物を見せる。


「それなら換金所が隣の部屋にあるから一緒に行くぞ」


「そうだな」


私も了承して頷いて二人の後をついていく。

換金所には厳ついおじさんがいた。


「おーギルド長とアレンじゃないか。いったいどうした」


「用があるのは後ろのアランだ」


「お! お前がアランか宜しくな。んで、何を換金するんだ?」


「はい、これの換金をお願いします」


小袋をおじさんに渡すと。紐を解いて中身をテーブルの上にばら撒く。その後、拡大鏡で魔石を一つ一つ鑑定し始めた。


「ちょっと、時間がかかるから待っててくれ」


私たちは換金所前にある机に三人で座り、鑑定を待つことにした。

10分くらいだろうか。換金所のおじさんから声がかかり、三人で向かう。


「えーとだなF級の魔石29個で261コルE級の魔石20個で400コル。D級の魔石1個で80コルだ。合計で、741コルだ。手数料で10コル貰うから731コルだ」


「7、731コルですか!?」


「おい! それよりD級の魔石ってまさかオーガのことか!?」


「ああ、ワシもそれを知りたい」


二人は驚いた様子で私に聴いてくる。私は二人にオーガの角を見せた。そうすると、二人は俯いた表情で唸った。


「言っておくがオーガはDランクが3から5人組みのパーティーで倒す魔物だ。それをお主は一人で倒してしまったと……」

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